EP.2 夢の日のドラマ〜Thanks for the Dream〜

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午後8時30分―― 「BLUE HEAVEN」 〈バタン〉 店のドアが開く 『お!おかえりエリ!』 『…………』 『どうした?』 うつむいているエリを心配する葉山 『あの男――やっぱり変な事、聞いてきたんだろ!』 ついつい感情を出す葉山 『……………』 エリは黙ってカウンター席まで歩み寄った 『………マスター』 『…………?』 『あの男の人……私のコト……よく知ってました』 『おおかた調べたんだろうな、ホントとんでもない奴だ』 『………私は……彼の事……思い出せなかった……』 『…………?』 『あんなに………よく遊んだのにね』 『………エリ………』 『当時は……お父さんの仕事の都合でよく学校を転校してたっけ……』 『…………』 『転校先じゃ……あんまり馴染めなくて……友達作るのもニガテで……』 『…………』 『中学の入学先が新しい学校で……知らない土地だし、周りの子達はある程度、知り合いみたいで、やっぱり私は……いつものように馴染めなかったんです』 『……………』 『そんな時……彼に出会ったんです』 『…………』 『彼は馴染めない私を気に掛けてくれて……本当に優しかったんです』 『…………』 『大好きな音楽の話になると本当に……夢中でした……』 ――『エリさんの名前って「いとしのエリー」から付いたってホント!?』―― 『特にサザンが……好きで……私と話が合ったのも……サザンのおかげでした』 『……………』 『でも……あの事故の後、私は、一度も学校に行けなくなって……いつの間にか……転校してました』 『…………』 『彼に別れを告げる事もできませんでした……』 『…………エリ………飲むか……』 葉山はカクテルを差し出す 『…………』 差し出されたカクテルを見つめるエリ…… 『…………』 ふいに 涙がカウンターのテーブルに落ちる 『…………エリ?』 『……私………私………』 『……………』 『彼の……夢を……奪ってしまったんです』 『…………?』 『彼………本当は、音楽が大好きだったから……大好きな音楽の仕事をするのが夢だったから……』 『…………』 『私のせい………』 『……………』 『あの事故が無かったら……きっと今頃……彼は……』 涙をぽろぽろこぼすエリ その姿を見ながら葉山はフッと微笑む 『エリ………なんでその人がエリに逢いにきたか分かるかい?』 『…………?』 『きっと憎んでたら……わざわざ逢いになんか来ないんじゃないかな……』 『……………』 『彼はエリに感謝したかったんじゃないかな』 『………感謝?』 『きっと今の仕事に愛情をもっているんだと思うよ』 『……マスター……』 『だから……「ありがとう」って……きっと言いたかったんだよ』 『……………』 『きっとそうだよ』 ――『あなたに出会えて本当に良かった』―― 去り際の相模の言葉が蘇る 『……そうかな……』 エリは指先でそっと涙を拭った 『俺も!この仕事に生きがい持ってるぞ!』 『……それは……よく分かります』 微笑むエリ 『だから妻には毎日感謝してる』 『――奥さん?』 『あぁ、アイツの夢だったからな。この店は――』 『そうだったんですか』 『まぁちょっと賑わいが無いのは残念だけどな』 『………フフッ』 『――お!もうこんな時間だな!ちょっと悪いんだけどさ――』 『分かってます……』 『〈マイホーム〉の方よろしく頼むな』 『はい………あ、ところでマスター……』 『ん?』 『ずっと気になってたんですけど……あの大きな〈マイホーム〉も……奥さんの夢だったんですか?』 『え?―――あ~あれはな、そうじゃないな』 『?』 『――渚の夢だよ』 『………渚ちゃん……?』 『そう………』 『…………』 夜9時―― 葉山邸 『渚ちゃ~ん!ご飯出来たよぉ~』 『……………』 やはり今日も返事は無く 『……………』 そして 夜は更け 夜11時――― エリの部屋 『……………』 エリは机に、先程、相模から渡されたCDを置いた “なんで……忘れてたんだろうね……” 後悔に再び包まれる しかし ――『あの事故が……私がこの道を進もうとしたキッカケでした』―― そう語った相模の表情 何処か輝いて見えた 〈コンコンコン〉 『――――!』 部屋のドアを叩く音 と同時に―― 『エリさん、いますか?』 渚の声 『渚ちゃん!?…………いるよぉ~!』 そう言いながらドアに慌てて向かうエリ 『入っていいですか?』 『――どうぞぉ♪』 〈ガチャ〉 ドアを開けるとともに渚が入ってくる 『………?どうしたの?渚ちゃん?』 『エリさん……』 ピタリと止まる渚 エリもつられて止まる 『――カレシに――フラレた』 唐突に話す渚 『…………そ、そうなんだ』 『慰めはいらないんです』 『ん?』 『よくある話だし』 『そ、そう………』 『全然、未練なんてないし』 『…………』 『悔しくなんかないし』 『…………』 『ただ………』 『?』 『こういうの初めてで』 『…………渚ちゃん?』 『付き合ったのも彼が初めてで』 『…………』 『ただそれだけなんだけど』 うつ向いている渚を優しく見つめる 『ただそれだけなんだけど……』 『我慢しちゃダメだよ』 『…………』 『泣きたい時は泣いていいんだよ』 『…………』 顔を上げエリをじっと見つめる渚 『…………』 『…………』 やがて―― 『う、う、う……ひっぐ……』 泣き出しそうな表情になる渚 そして―― 〈バッ!〉 『…………!?』 エリの胸に飛込んできた 『ひっぐ……ひっぐ……う……う……』 エリはその頭を優しく撫でる 『ひっぐ……エリさん……やっぱり……慰めて……』 『フフ……よしよし……分かった』 〈ぽんぽん〉 背中を優しく叩くと 部屋の中へ渚を促す 『はい、座ってね』 渚をベッドに座らせる 腕を組み考える仕草をする 『う~ん私は、経験少ないほうだからなぁ~』 『………?』 『よし、こんな時はね!』 『……………』 何かを思い付いたかのように机に向かうエリ 『…………?』 そんなエリを不思議そうに目で追う渚 『やっぱり音楽を聴く!かな?』 CDを渚に見せながら笑みを浮かべるエリ 『…………何?嵐?』 『嵐もイイけど―――』 CDをデッキにセットし―― 『サザンもいいよ♪』 プレイボタンを押す
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