EP.3 風の日のドラマ~Good-bye to yo~

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病院の病室 連絡から2時間も経ち―― 彼はようやく現れた 『栞!!どうしてなんだよぉ―っ!一緒に幸せになろうって言ったじゃないか!』 ヒロシは、冷たくなった恋人……栞の手を握り締めながら叫んでいた 『…………』 そんな彼に伝えなければいけない言葉がある 誠の脳裏を何度も横切っていく―― ―最後の言葉― 『ヒロシ………』 その言葉の一つ一つの想像を絶する重さに心が押しつぶされそうになる 『栞ちゃんなぁ………お前と連絡が取れたほんの少し前だ………まだ意識があってな……』 絞り出すような彼女の声 『……お前と行ったサザンのライブに………もう一度行きたいって……』 ―最後の言葉― それは命の叫びだった 『もう一度……あのライブを……お前と一緒に……』 そこまで言い、溢れそうになる涙をこらえ、唇をかみしめるしかなかった 『………くそぉぉっ!!』 〈バッ〉 ヒロシは、栞のベッドから離れ、脇目もふらずに真っ直ぐに病室のドアに向かう 〈ガチャッ!〉 病室を抜け出していく―― 〈バタン!〉 現実を受け止められず逃げるかのように―― 『ヒロシ……』 引き留める余裕すらなかった 『……………』 たちまち病室は静寂に包まれる 『……………』 ベッドの上で眠る栞 まるで微笑むように 瞳を閉じながら 『……………』 【彼女は自ら命を絶った】 その現実を 彼はまだ知らない 『……………』 彼女が眠るベッド―― その傍らでうつ向いている 制服姿の女子高校生 栞の妹の――海 『……海ちゃん……』 『…………』 『俺……まだ言ってないんだよ……アイツに……』 『……………』 『………栞ちゃんが……何で……その……』 『そのうち分かる事です……』 彼女はとても毅然としていた 『……………』 “何もかも……自然にまかせていこう” そう心に決めたのだった 2009年―― 12月20日―― 寒い冬の朝 『さみぃなぁ~』 助手席の男は車の暖房スイッチに手を伸ばす 『着込みが足りないんじゃないか?』 手をこすり合わせているその男に――誠は、笑いながら応える―― そして 『じゃあ、行くぞ』 アクセルペダルを踏み込む 〈ブォーン〉 動き出す車―― それとともに―― 車内にBGMが流れ出す
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