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『――もしもし!?』
ケータイをかけながら世話しなく夕暮れの繁華街を歩く海
電話の相手は――
『――ヒロ兄ちゃん!?ちょっとどーゆーコトぉ!?』
江島ヒロシ
『今、どこにいるの!?――』
居場所を探るのだが、海、自身、薄々察しはついていた
『やっぱりね……ちょっとそこで待ってなさいよね!』
〈ピッ〉
いきおいよく電話を切る
“……ヒロ兄ちゃんのバカ……”
足音のリズムが小刻みにピッチを上げる
『…………』
“私の気持ちも……知らないで……”
不思議と目がしらが熱くなってくる
“…………”
何故だか分からなかった
こみあげてくる怒りと同時に心の奥底が震えて、目元まで濡らしてしまいそうになるのだった――
“…………”
居酒屋『ちゃこ』名古屋店――
海は、その店の引き戸を開ける
〈ガラガラガラ〉
店内には、数名の客がいる
『いらっしゃ~い』
流れるBGM――
🎵Ah はじまりを祝い……🎵
探し人は、容易に見つかる
🎵歌う最後の唄🎵
カウンター席に座っている背中――紛れもない――
🎵僕は今手を降るよ🎵
“いた――ヒロ兄ちゃんめ~”
🎵Ah 悲しみにさよなら🎵
歩み寄る
🎵疲れ果てて足が止まるとき🎵
すぐ近くまできても気付かないヒロシ
🎵少しだけ振り返ってよ🎵
ビール片手に、鳥の唐揚げをほおばっている
🎵手の届かない場所で……🎵
〈バン!〉
カウンターのテーブルを思いきり叩く海――
🎵背中を押してるから……🎵
『!?……海ちゃん……もう来たの!?』
『ヒロ兄ちゃん!一体どーゆーこと!?』
『………あれ?辻堂と一緒じゃなかったのか』
『はぁ~』
海は溜め息をつきながら、ヒロシの隣の椅子に腰かけた
『辻堂さんとは、少しお茶して別れた――』
目が完全に怒っている
『……へぇ~そうなんだ』
『そうなんだ、じゃない!!私だって今日、ホントは友達と予定があったんだよォ!?それをさぁ~キャンセルしてまで行ったんだよ』
『じゃあ~その分、楽しんでくれば良かったじゃん』
『だから、私は――ヒロ兄ちゃんが来ると思ってたから――』
『俺が来るのが……なんか意味あるの?』
『――え!?』
🎵Ah 旅立ちの唄🎵
ヒロシの言葉に躊躇する海
🎵さぁ どこへ行こう?🎵
『別に俺がいなくても楽しめたんじゃない?』
🎵また どこかで出会えるね🎵
『いや……その……だからね……辻堂さんとは、まだそんなに面識が無いし……』
🎵とりあえず「さようなら」🎵
急にしどろもどろになってしまう
🎵自分が誰か忘れそうな時……🎵
『とにかく!私を騙したんでしょ!?それがゆるせない!!』
🎵ぼんやり想い出してよ🎵
『……まぁそれについては悪かったよ、ホントゴメン』
🎵ほら 僕の体中……🎵
『…………』
『…………』
🎵笑顔の君がいるから🎵
『もぉ~!私もビール飲む!!』
『おいおい未成年だろ。よしとけって』
『…………知らない!』
ソッポを向く海
『…………』
〈コトン〉
海の前にグラスが置かれる
🎵背中を押してるから……🎵
『…………』
なおも無視する海
やがて
〈カチーン〉
『……冗談だよ……海ちゃん誕生日おめでとう』
🎵でも……返事はいらないから🎵
『…………!』
ハッと振り向く
『……ヒロ兄ちゃん……』
グラスを持ち上げ笑っているヒロシがいた――
🎵🎵
『あっ』
『あっ』
二人とも声を揃える
店内に流れるBGMが――
『サザンだ』
聴き覚えのあるBGMになっていた
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