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「彰、そこに座りなさい」
私がいつになく険しい顔でそう言ったので、彰は驚きながらも、リビングの椅子に座りました。リビングには夫もいました。
「彰、あなたその服のこと、お母さんの趣味だって言ってるそうね。周りのお友達に何か言われたの?」
「う、うん。『男のくせに変なの』って」
「そう言われて辛いのはわかるわ。でもね。お母さんが彰に無理矢理その服を着せていると言われるのは嫌ですよ。今までお母さんは彰の選んだものを尊重してきたのに。お母さんは彰に何かを押し付けたことなんてないでしょう?」
「うん」
「好きなものを着ていたいならもっと堂々としていなさい。お母さんの趣味だってごまかすのはよくありません」
「だけど、お母さんも同じことしてるじゃない」
「え?」
「玄関に飾ってあるプラモデル、誰かが褒めたら『息子が好きなもんですからおほほ』っていつも言ってるくせに」
「なっ!?」
自分の趣味を人のせいにするなんて、そんな発想一体どこからと思っていたけど、私の真似だったのか!しかも玄関口での客人との会話を彰が聞いてるとは……私は頭を抱えました。
「あはは。彰は誰に似たのかと思ったけどお母さんそっくりじゃないか!」
端で見ていた夫が笑いました。
「はあ。言われてみれば私もなんとなく自分の趣味が恥ずかしいわ。自分が趣味を楽しく思っていても、趣味を周りに言うのが気恥ずかしいって気持ちって、あるよね……わかるよ、彰……」
私は彰を抱き寄せて、
「だけど、好きなものは好きと堂々と言えるようになりましょう。頑張りましょう、彰」
そう言うと彰は、
「うん」
と力強く頷きました。
おわり
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