それはお母さんの趣味です

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 ある日、夫が言いました。 「彰はあんな調子でいじめられていないだろうか」  息子が少女趣味であることを、学校でからかわれていないか心配しているようです。息子は小学一年生になっていましたが、いじめられたなどという話は聞いたことがありませんでした。 「大丈夫なんじゃないの? 昔ほど男らしさとか女らしさにうるさい時代でもないし……」  私はのんきに言いましたが、 「だけど、時代がどうであれ子供っていうのは自分と違うものを排斥するもんだぞ。昔より自由かもしれないけど、彰の趣味が少数派なのは変わりないだろう。やっぱり心配だ」  そう夫に言われたものですから、面談の時に一応担任の先生に相談してみることにしました。なにごともなければそれでいいですし。 「先生、うちの子、持ち物や服装のことで、お友達にからかわれたりしていないでしょうか」 「教室で見ている限りはそういった様子はありません。ですが……」  ここで先生は口ごもりました。なにか言いにくそうにしています。 「先生、なにか?」 「あの、お母様、心配なさっているなら無理にああいう物を持たせなくてもよろしいのでは?」 「え?」  私はなんのことかわからずぽかんとしました。 「彰くん、『服も持ち物もランドセルもお母さんが選んだんだもん。お母さんが買ってくるんだもん』って言っていますが……」 「ええ!? そんなはずは……あの子がどうしてもって言うから! 私は一度もあの子が選んだ物に文句は言っていませんよ!」 「そうだったんですね。だとすると、私が気づかない所でからかわれているかもしれないですね」 「からかわれたときに『これは自分の趣味じゃない』って言い張ってるということですね?」  たぶんそうだと思います、と先生は相槌を打ちました。
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