空を仰いで

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 葬儀場の控え室で朝を迎え、母の顔をもう一度覗き込む。当たり前だがさっきと同じだ。見た目、頭蓋骨にうっすらと皮膚を貼っただけの顔、目が落ちくぼみ、開いたままだった口を閉じさせたためだろうか鼻の下がより長い。やはり髑髏(どくろ)に見える。  シャワーを浴び、弁当を冷蔵庫から取り出して一人テレビの前で食べた。片付けるともう何もすることがない。渦巻き型線香は約六時間もつそうで、まだかなり残っている。  スマホで音楽をかけながら軽い柔軟をしてみるが、普段やっていないことは五分もしないうちにネタが尽きる。イヤホンから私の好きな曲が流れ続ける。母にも聞かせることにしよう。  内障子を開けて窓ガラス越しに外を見ると、駐車場に車が止まり、従業員らしき人が降りてきた。その奥で別の男性が黒い服のままアスファルトを掃いている。  空が青い。雨予報が外れ、気持ちがいいほど晴れた日になった。空の高いところに髑髏マークみたいな白い雲が浮かんでいる。その髑髏雲が風に乗ってゆっくりと流れていくのを眺めているうちに、何故か母だと思った。そして「あとはヨロシク」と私に言ったような気がしたのである。  身体から離れ、自由を得て面白いこと、楽しいことを探しにいったに違いない。小さく手を振って雲を見送った。
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