母の呪い

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 あるとき、あるところに一人の女の子がいました。女の子は、お父さんとお母さんと暮らしていましたが、その暮らしは幸せとは言えませんでした。お母さんはなぜか、女の子に辛くあたり、わざと汚らしい恰好をして、食べ物も少ししか与えませんでした。そして、女の子は灰子と名前をつけられていました。 「灰子!いつまで寝てるの。早く起きなさいと朝ごはんは無しよ。」 「あ、ごめんなさい。お母さん。昨日の夜、お腹が空いて眠れなかったの。」 「何ですって!?まるで、私があなたにわざとご飯をあげてないみたいな言い方して!どこで、そんな言葉づかいを覚えてきたの!」 「ごめんなさい、お母さん。今すぐ起きるから。意地悪のつもりじゃ無かったの。ごめんなさい、ごめんなさい、お母さん。」  灰子は毎朝悲しい気持ちで目を覚ましました。目をこすりながら階下に降りると、用意されているちょっぴりの玉子とトーストをかじります。お父さんの姿はすでにありませんでした。灰子はあまり、お父さんの姿を見たことがありません。一緒に暮らしているはずなのに、ずいぶんその存在は灰子の世界にとって薄いものでした。ただ時折、Yシャツの洗濯物を目にするときに、そういえばお父さんと一緒に暮らしているんだな、と思うことがありました。その後はいつも通り、朝の準備をして学校に行くのです。そう、学校に行くことができる、外の世界を知ることができるのは、灰子にとって、せめてもの救いでした。 「灰子ちゃんのお家って、変わってるよね。」 「ねえ、もし本当に辛いなら先生に言ってみたら?」 「えー、大丈夫だよ!そんな辛いとか。お母さんがちょっと厳しいだけだから。」  灰子はいつも無理に笑顔を作ってごまかしていました。皆に心配をかけたくないという気持ちと、どんなに苦しくても自分のお母さんは悪いお母さんじゃないという気持ちがありました。  灰子は家よりも学校にいることの方が好きでした。でも、イヤでも家には帰らなければいけません。早く大人になりたい。18歳になれば、この世界のルールでは家を出て一人で生きていくことができます。いつか必ず来るはずの18歳は、灰子にとって永遠に来ないように思われるのでした。
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