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灰子、もとい玲奈の生活は楽なものではありませんでした。何より、お母さんがお父さんの首を絞めた時の光景が度々頭の中に蘇ります。その時の夢を見てガバっと飛び起きることも何度もありました。そんな時、いつも玲奈のパジャマはぐっしょりと濡れ、妖精のおばさんがすぐに駆け付け、玲奈の背中をさすってくれるのでした。妖精のおばさんは、玲奈に真実を教えることよりも、玲奈の心を取り戻すことを優先しました。清潔な服とフカフカのベッドを与え、心からの玲奈に接しました。植物を育てることや、犬を飼うこと、ケーキを焼くことなどを教え、毎週、学校の友達を招待させました。そして、ある日とうとう玲奈のこと、玲奈のお母さんのことについても教えました。
「灰子ちゃん。私はね、あなたとあなたのお母さんに名前をあげたのよ。幸せな人生を送れますようにって。」
「そうなの?おばさんが私に灰子って?」
「いいえ、最初からお話しましょうね。最初はね、あなたのお母さんが生まれたときに名前をあげたの。紫っていう名前。妖精があげる名前というのは、とても強力な守護魔法なのよ。でも、お母さんの誕生パーティーに呼ばれなかった悪い妖精が怒って、永遠の眠りの呪いをかけたのね。」
「永遠の眠りって、死んじゃうってこと?」
「いいえ、ただ永遠に眠り続けるの。最も邪悪な呪いの一つよ。そしてその呪いを解いたのがあなたのお父さんだった。」
「本当にお母さんの言ってた通りだ・・!!」
「そうよ。最初はあなたのお母さんはお父さんのことを本当に愛していたわ。でもね、あなたのお父さんは悪い人だった。お母さんが呪いから解かれたのは12歳の時だったの。眠りから覚めてすぐに結婚したのだけれど、年を取るお母さんを愛することができなかった。それでも、20歳にもなってない若い時だったのによ。」
「お父さんは・・・小さい子どもが好きなの?気持ち悪い・・・。」
妖精のおばさんは悲しくうなずいた。
「町では子どもが消える事件もあり、お母さんはお父さんのことを疑っていたわ。でも、証拠は無かった。そんなときにあなたが生まれたの。でもお母さん、疑っていてもお父さんと離れられなかったのね。」
「・・・私、分からない。」
玲奈は優しかった父の本性を知って、吐き気がするほど、不快でした。
「ええ、私にも分からない。お母さんの中でどんな気持ちだったのか、もう分からないけど、少なくともたくさん悩んだことは確かでしょうね。お母さんは、一人で生まれたばかりのあなたを私のもとに連れてきたわ。私は玲奈という名前を与えた。お母さんはその本当の名前を隠して、あなたを灰子と呼んだわ。お父さんから守るために。」
「・・・お母さん、そうだったの。だから、わざと私を汚く。」
「ええ、キレイなあなたにお父さんが悪いことをすると思って、念には念を押して。あなたが大人になったら、家から出すつもりだったらしいの。でも、お父さんの悪い力が強くなりすぎてしまった。それに、お母さん自身も心が少しこじれてしまっていたわ。良くないと思いながらも、あなたを守りたいのか、苦しめたいのか分からなくなっていたみたいなの。」
「だから、お父さんを殺したのね。自分が死んでしまうことも分かって。」
「ええ。私がもっと早くに助けられていれば。ごめんなさい。家の中に入る、ということは簡単なことでは無いのだけれど、無理やりにでも入っていれば、せめてこんなことには・・・。」
「いいの、おばさん。教えてくれてありがとう・・。」
玲奈は、キッと妖精のおばさんを見上げた。
「おばさん、私に妖精の術を教えて。」
「玲奈ちゃん・・・。」
「もし、まだどこかに呪いで苦しんでいる子がいるのなら、私が助けてあげたい。おばさんが今私にしてくれてるみたいに。もうあんな苦しいことはイヤ。私が苦しいのも誰かが苦しいのも嫌なの。」
「・・・分かったわ。玲奈ちゃん、あなたは今本当の名を手にした。すなわち、本当の力を手にしたということよ。妖精の力は本当に強力で簡単には習得できないけれど。もちろん、全力をかけてあなたを最高の妖精にしてみせるわ。」
「ありがとう!おばさん!!」
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