19人が本棚に入れています
本棚に追加
ここは、とある団地にある、村澤家のキッチン。
ボサボサの髪をひとつ結び、タンクトップと擦り切れたジャージのズボン姿の村澤和子が、 鼻歌を歌いながらトマトを切り、踊りながら皿に盛っている。
和子は、まるで宝塚の女役のような美声で、気分良さそうに適当に歌いながら、納豆のパックをあけた。
マイクを持つジェスチャーをしながら自分の歌に酔いながら、スプーンで納豆に砂糖をかけた。
ピンポーン。
ぴたりと動きを止める和子。
静まり返るキッチン。
もう1度ピンポーン。
微動だにしない和子。
激しいノックの音。
どんどんどん。
近所迷惑も甚だしい。
和子は全力の嫌そうな顔をして、音を立てないよう、忍び足で歩く。
ノック、どんどん大きくなる。
和子は大きくため息をつきながら、玄関へと向かった。
扉を開けると、和子の義母の直子が満面の笑みで立っていた。
引きつる笑みを、無理矢理返すしかない和子は、直子に見せられた紙袋に嫌な予感しかしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!