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 ところが。  本日の講義が終わり、私が帰り仕度をしていた時だった。 「朝川先生」 「はい?」  声の方に振り向くと、例の彼女が笑顔を私に向けていた。身長は一六〇センチほどだろうか。日本人女性としては若干背が高い方だろう。しかし体型は標準的な日本人女性のそれに近い。身にまとっているのは薄いレモンイエローのワンピース。 「先生、これから少しお時間ありますか?」  なんと。  彼女の方からアプローチを仕掛けてくるとは……男子学生の嫉妬の視線が、粒子加速衝突器(コライダー)のビームのように私に収束するのが分かる。とは言え、私自身は決して自分が女子学生にモテるタイプだと思えないのだが……よく考えてみれば、そもそも私の科目を女子学生が履修すること自体が極めて稀なので、その結論は統計的に有意(シグニフィカント)ではないかもしれない。  それはともかく。 「あ、ああ。ありますが……何か?」 「良かった……」  なぜか彼女は大げさに安堵のため息をつく。 「実は、少し内密にお話したいことがありまして……研究室にお邪魔していいですか?」  おっと。  周囲の男子学生たちによる嫉妬のビーム強度(インテンシティ)が、さらに上がってしまったようだ。だけどそれが、ちょっとした優越感を私にもたらす。 「ええ、いいですよ。私も君と話をしたいと思っていたからね」  私がそう言うと、彼女はふわりと微笑んだ。 ―――
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