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「先生のアイデアは基本的には正しいと思います。ですが、先生は重力はnegligible(無視できる)として考慮に入れてませんよね。わたしはむしろ、単なる量子力学ではなく、量子重力の枠組みで考えるべきだと思うんです。ワームホールの影響を導入すると、1-loop(ワンループ)の計算で結論にかなり違いが……」 「ちょ、ちょっと待って」私は彼女の言葉を遮る。  あまりにも想定外だった。こんなに真っ正面から物理の議論をふっかけてくるとは……  しかも彼女は、少なくとも量子場の理論は把握しているようだ。とすれば知識レベルは明らかに学部生以上。私の科目の内容などとっくにマスターしているはず。なのに、なぜ私の科目をモグリになってまで聴講するのか。私は彼女を正面から見据え、問いかける。 「君は何者だ? そして、なぜ重力を導入するのが正しいと言い切れるんだ?」 「まず最初の質問にお答えします」彼女はすまして言ったものだった。「わたしは、スタンフォード大学量子物理学研究室のD2(博士課程2年)の院生です」  やはり海外の大学院生か。それならば、やけに英語の発音が良いのもうなずける。しかもスタンフォードなんて、ものすごいところからやってきたものだな。  ん? スタンフォード……? ああっ!
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