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最後の結婚式
五月晴れの爽やかな日。
今日は末娘、百合の結婚式です。
「お父さん、着替えここに揃えておきましたから、あとは自分でお願いしますね」
私は主人の用意を整え、自分の身支度にかかろうとしました。
「お母さん!靴下はこれじゃないやつあったろ?そっちがいいんだけど何処にある?」
「はい?今日くらいご自分でなさって下さい。私も支度がありますので」
そんなやり取りをしていると玄関から長女、桜の夫婦と孫の夢、そして次女、楓の夫婦の騒がしい声がしてきました。
入って来るなり桜が
「お母さん、確かパールのネックレス持ってたよね?貸してくれない?出掛けに夢が騒ぐもんだから忘れちゃった!」
やっと自分の支度に入れると思った時に言われ私はちょっとムッとして
「クローゼット開けるとボックスがあるからその中よ、自分で取って!」
美容師をしている次女の楓が髪のセットをしてくれます。私を見て…。
「お母さん、私が来るまでカーラーしておいてって言ったじゃん!んもう!小手使わなきゃなんない!間に合うかなぁ」
私はムッとがイライラに変わる寸前で食い止めて
「だってお父さんが…」
私が言い始めると同時に桜が、ネックレスを二つ持って。
「楓、どっちがいいと思う?」
桜に被さる様に主人が
「お母さん、挨拶を書いた紙何処だっけ?」
「はい?さっきリビングのテーブルに置いてたじゃないですか」
「だよなぁ、それが無いんだよ」
「えっ!」
私は楓が小手を当てようとしている時に主人の方を見ようとすると
「だからぁ!お母さん!時間が無いんだから動かないで!」
「わかりました!桜、お父さんと一緒に探してくれる?」
桜は桜で夢が走り回るのを追いかけている。
そこで桜の夫が「僕が探します」と言うと。
桜が「あなたが夢のこと見てよ、私が探すから」
楓が「あなたも探して!」と夫に叫んでいます。
その時、私が映る鏡に夢がパタパタと音を立て横切る姿が見えました。
私と楓が同時に叫びました。
「夢が何かの紙とクレヨン持ってる!」
次に鏡に映ったのは桜と桜の夫が追いかけている姿。それを見た楓が
「あなたも早く追いかけて!クレヨン持ってるから何か書いちゃったらヤバイよ!」
その時「えっ?」私と楓は桜夫婦が走り去った後の鏡を見て同時に言葉が出ました。
「あなたたちなにやってんの?」
私が振り向こうとしたら楓が
「動くな!」と怒鳴ります。
縁側を主人と楓の夫が並んで歩いているのです。楓の夫が
「義父さんにバージンロードの練習頼まれて…」とひきつり笑いをしながら並んで足を揃えて歩いています。
私は耐えきれず大笑いをすると楓が怒鳴って。
「お母さん動くな!あんたらもいい加減にしろーっ!」
一同その場で固まってしまいました。そしてあまりの怖さに夢が泣き出して。慌てて桜の夫がなだめると、楓の夫がその場を納めようと。
「女性陣は忙しそうなのでコーヒーでもいれますね」と台所に向かうも
「お義母さん、カップはどれ使ってもいいですか?」とまた私に聞いて来ました。
「そこの棚の…」と手を上げようとしたら「動くな!」とまた怒られました。
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