願い

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「ねぇ、覚えてる?」  結婚して五年目の記念日。この日はちょうど休日が重なっていたので、少し、いや、かなり奮発してホテルのディナーへ理沙と行った帰りであった。   帰って来て、ご機嫌でテレビを観ている理沙に、今だと思い、話を切り出した。  すると、「ん? なにー?」という間の抜けた返事が来て、俺は少し肩透かしを食らった気分になる。 「駅の近くにマンションがあるの覚えてるかな?」 「ああ。うん、覚えてるよ」  理沙から返ってきた言葉に今度は安堵しながら、俺は話を続ける。 「あそこ、あとで内見に行ってみない? もうそろそろ広くて新しいところに引っ越してもいい頃かなと思って」 「あー、もう少しあとでもいいんじゃない? 隼人、今仕事忙しそうだし」  理沙の気のない返事に俺はとうとう落胆し、今日のところはもう話すのをやめることにした。 「じゃあ、私そろそろお風呂入ってくるねー」  毎週楽しみに観ているドラマが終わってしまい、理沙は着替えとタオルを持ち風呂場へ向かっていった。  そして、俺はリビングで一人になった。1LDKの狭いアパートなので一人になったからといって、場所を持て余すわけではない。小さなリビングがあり、それとは別に寝室としている和室が一部屋。付き合っている頃と変わらず、俺と理沙はこの部屋で二人暮らしをしている。  まだ俺がプロポーズをする前、付き合っていた頃に交わした会話を思い出す。  あの日はお互いに仕事で、夜に一緒にスーパーに買い物に行った帰り道だった。 「わー、すごいおっきいね」  俺は一瞬理沙が何を指して言っているのかが分からなかった。 「何が?」  そう聞くと、理沙は街頭に照らされた道の奥の方にある一つの明かりを指差す。 「あのマンション。すごいきれいで大きい」  確かに理沙の指差すマンションは最近できたばかりで、確かに綺麗で、部屋も広いと思われた。 「いつか、あんなとこ住んでみたいなあ」  理沙はくたびれた通勤カバンを持ちながら、俺も同じくらいくたびれた通勤カバンと、スーパーの袋を持ちながら並んで歩いた。中には半額のシールが貼られた二つの弁当と、缶ビールと缶チューハイが一つずつ。週末の晩酌が俺と理沙の楽しみだった。    
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