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3
「さぁ、目を覚ますんだ……」
「目を覚ますんです……早く目を覚まして……さん。起きてください……さん」
「起きろ。頑張ってくれ……」
あの声は息子なのだろうか……いえ、どうも違うようだ。
深淵から微かに漏れ聞こえる息子ならざる声。
いつか、どこかで聞いたことのある懐かしさと安心感。南極で亡くなった、夫だろうか……心惹かれる声。
今のは、いったい何だったのだろうか。
十二年前のあの夜のことを思い出した途端、一瞬、意識を失ったとでもいうのだろうか。
「どうしたの、お母さん」
養子の少年の声は心配とは程遠いものだった。それもそのはずだ。目の前にいる幼気な少年は以前の無邪気で愛らしい少年ではない。役に立たなくなった実の息子を滅ぼす少し前、新たな協力者とするために殺害し、蘇らせた存在だからだ。
それにしても愚かな人類に進化の福音をもたらすはずの息子が、なぜ変節してしまったのか。せっかく母子で血のにじむ努力の末、州の下院議員から最年少の大統領候補の指名まで勝ち取ることができたというのに……世界を浄化する絶大な力を得るまで、あと一歩のところまできていたのに……。
理由はわかりきっている。ダイニングの床に壊れた人形のように横たわる息子の恋人だ。宇宙の真理の欠片さえ理解し得ない愚かな存在が息子を蝕んだのだ。
でも、なぜそんなことが可能だったのかがわからない。愛だの正義だの、安っぽいドラマの中にしかないものに息子が惑わされるはずは絶対にないのだ。もっと他に何かあったはずだ。自分が知らない何かが……。
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