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蘆薈
「ここで破れてるんだよね……」
残念そうな妹の声で意識を引き戻された。
どうやら僕は、この物語の結末を知っている。
そりゃあ演じたんだから、当然と言えば当然だが。
忘れていたはずなのに、思い出した、などと言うにはあまりにも鮮明に、その結末が僕の中に沸き起こる。
でも、その結末は、あまりにも辛く、残酷なものだった。
「お兄ちゃん。」
アヤメはまっすぐ僕の方を見ていた。
でも、アヤメの目に僕は写っていない。
「アヤメ、ごめんな。僕は、忘れたかったんだ。」
そうだ、僕は忘れたかった。だから
「お兄ちゃん……」
だから僕は、台本を、
「これ、お兄ちゃんが破いたんでしょ。」
ああ、そうだよ。
そう言った僕の声は、アヤメの耳には届かない。
僕は忘れたかった。
だってその結末は、勇者の行く末は、全部、全部、紛れもない僕自身だから。
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