129人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあね姉さん、また後でね♡」
薫に手を振り返し、お互いに別々の教室に入る。
「お―、相変わらずお前にベッタリだな、佐伯弟…」
「さ、齋藤君ッ!?」
入口に立っていたのは、クラスメイトの齋藤涼真君だった。
予想外だった朝からの彼との遭遇に、私の顔は一気に熱を帯びる。
なぜなら、人生の一大イベント。それは今日、彼に告白することだからだ。
齋藤君はクラスの人気者で、委員会の仕事が一緒になったのがきっかけによく話すようになった。
そして誰にでも分け隔てなく優しい彼に、私は少しずつ惹かれていった。
しかし、そんな片思いも二年目に差し掛かってしまい、痺れを切らした友人に肩を押される形で今日告白することが決まったのだ。
私がそんな重大イベントを控えているとも知らず、齋藤くんは話を続ける。
「本当、佐伯達ってめちゃくちゃ仲いいよなぁ。姉弟で毎日一緒に登校するって、この年齢じゃ珍しいし。」
「そっ、そうかな?」
(き、緊張でうまく顔が見れない…!)
いつも以上に意識してしまうせいで、どうしても口数が少なくなってしまう。
「ははっ、自覚無しかよ~、俺が嫉妬しちゃうぐらいには仲いいって~」
「あははっ、…えっ」
…ちょっと待って。
今、『嫉妬する』って言った…?
緊張しすぎて、幻聴を聞いてしまったのだろうか。
しかし、齋藤くんはしまったと言うように口を手で抑える。
「あっ、えぇっと…これはその、違っ、いや、違うのが違くて…!!」
普段は堂々としている彼がうろたえ、顔も耳も真っ赤になりながら、恥ずかしそうに目を反らす。
(ウソ…、これって、もしかして…)
ー齋藤君も、私のこと…
ドキドキと、うるさいぐらいに心臓の鼓動が速くなってく。
「あ~っ!もう…っ!」
齋藤くんが、バッとこちらを振り返った。
「佐伯香織さんっ!」
「はっ、はい…!」
「あなたが好きです…!俺と…、つ、付き合ってくださいッ!!」
もう言ってしまえと言わんばかりの勢いだった。
(えぇ?!…ホントに、私の事を……)
嬉しさと緊張で震える声で、私は彼に返事を返す。
「わっ…、私も、齋藤くんが好きです!よろしくお願いします…ッ!」
沢山の人が集まった朝の教室で告白されたものだから、周囲の歓声や冷やかしがたまらなく恥ずかしかった。
しかし、そんなこととは比べ物にならないほど、この時の私は幸せでいっぱいだった。
「さえ、…んん!…か、香織、ちょっといい?」
「…え!?」
放課後、話しかけてきた彼に突然下の名前で呼ばれ、思わず心臓が飛び出そうになってしまった。
「なっ、何?!さい…りょ、涼真、君…?」
私も彼を下の名前で呼んでみる。が、これがなかなかに照れてしまう。
「あっ、あのさ!…今日一緒に帰らない?」
私同様、下の名前で呼ばれて、また顔が赤くなっている涼真君がそう言った。
「えっ!あっ、えぇっと…」
(凄く行きたい!けど…、)
この後、薫と夕飯の買い物に行く約束をしてしまっている。
しょうがないが、今日はあきらめようと断ろうとした時、ふと思った。
―これはいい機会なのかもしれない。
私は、両親がなかなか家に居ないことから、寂しい思いをさせないために、いつも弟の薫を優先してきた。
薫も、昔からずっと私にくっ付いていたせいか、いつも人間関係が希薄だった。
でもきっと、それはお互いにとってよくないことだ。
私も薫も、もっと他人とふれあう時間が必要なんじゃないか、と…
そして考えた結果、私は、初めて薫じゃない方を選んだ。
「…うん、一緒に帰ろ!」
薫には、用事ができたから先に帰ってとラインを送った。
彼氏ができたことは家に帰って話そうと、私は涼真君と学校をあとにした。
最初のコメントを投稿しよう!