ありがとう

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「さようなら」 君はそう言って僕の部屋を出ていった。 八月四日 天気は晴れ。 雲がなく広い黒い空に星がきれいに散らばっていて、僕には空が偉大に感じたあの日。 彼女は僕の元を去っていった。 あれから、なんだかよくわからず日にちが目まぐるしく変わっていった。 とても無気力だったこの一ヶ月。何事もなかったかのように仕事に出て、この間まで帰りを待つ人がいた部屋へ疲れた体をしまいにいく。 「ただいまー…って、あぁ。そうか。…いやぁ、馬鹿じゃねぇの自分」 いつものように、営業で歩き回り疲労しきっている体を力なくベッドへ倒した。 電気でもつければいいのか。 いや、もう面倒くさい。このまま、暗闇に泳いでいたい。 “またー!電気ぐらいつけなよー。びっくりするじゃんか” ふと、閉じた瞼に君の存在を探したら幻聴が聞こえた。 「いや、本当に馬鹿だ」 幻聴じゃない。これはただの妄想だ。きっと君がいたら、こう言うんだろうなっていう僕の願望が入り混じった妄想。そう。少しはにかみながら、僕に近づき冗談交じりで僕を叱る君。たぶん、君ならこう言うんだろうな。っていう妄想をしている自分が恥ずかしくて、誰もいない暗闇でつぶやいた。 なんだろうな。つい探してしまうんだ。君の事。君の姿、君の意識、君のすべて。 順調だった。 いや、そう思っていたのは僕だけかもしれないが。とても順調だったと思う。 付き合って、4年。お互い理解しあって、時にぶつかり合って泣き笑いして一緒にいた、この4年間。出逢いから数えれば5年以上も前のこと。 そう、別々の道を歩んでから一ヶ月。 あれから、一度だって君からの連絡がない。フラレた僕から連絡なんてとれない。取りたいけれど、取れるわけない。 何をいまさら話すことがある?「元気?」「何してるの?」「仕事はうまく行ってる?」そんなことどうだっていい。他愛のない内容のない、フッた男との空虚な時間君は望むのか?望むわけない。 にしても、あれだけ一緒にいたのに《さようなら、ハイ。明日から他人です》と、よく割り切れるな。僕は君にとって一体なんだったんだ。どういう存在だったんだ? 「あー。ダメだ」 頭の中、心の中君で埋め尽くされて、さっぱりしたくてシャワーを浴びようと体に力を要れ立ち上がった。 もう毎日のようだ。そうだ、習慣といってしまっても過言ではない。君に怒りを覚えて、胸に溜め込んだ息を大きく吐き出してからシャワーを浴びる。これはこの一ヶ月間で身についた、習慣。 なんとも悲しい習慣なんだろうか。 これからもそうなのかなぁ。なんて考えたら、苦しくなってもう一度大きく深呼吸をした。そしてシャワーハンドルを握り、あることに気づいてしまった。 「あ、電気付け忘れた」 きっと、これも君のせいだ。うん。違いない。
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