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どこに向かっているのだろう、僕は一体どこへ向かって歩いていくのだろうか。
「やーだぁーもう!」
「なんでだよー。いいじゃん!」
通りすがったカップルが手を繋いで笑い合いって歩いている。ついこの間まで(ついこの間までとは言うもののもう半年以上前のことだが)、自分もあんな風に彼女と無邪気に笑いあっていたのだろうか。今の僕にはとてもまぶしくて、少し恥ずかしい。そっか、今まで周りから僕と彼女はこんな風に見られていたんだ。なんだかキラキラしていて、照れくさくなって思わず「っぷ」と笑ってしまった。
「あ」
立ち止まっていた足をまた動かそうとしたとき、聞きなれた声が聞こえその人物と目があった。そして僕も「あ」と声を上げた。僕より先に声を発した人物をはっきりと確認してから、来た道を戻ろうとさっき通りすがったカップルの後を追うように歩き出す。
「待って!何で逃げるの!?」
呼び止められた。いやでももう振り向けない。このまま去ろう。この場から逃げよう。うん。それが良い策だよな。そんな、今見たのは幻想だ。僕の妄想が具現化などするはずがない。君がここにいるなんてありえ得ないことだ。
「ちょ!待ってって!何でって!」
君は僕の腕を掴んだ。これは足を止めざるを得ない。けれど、僕は顔を君に向けようとしない。
「ちょ!!こっち見なさいって!」
君は無理やりといっていいほど、強引に僕の体を自分の方向に向かせた。これは拷問ですか?
観念した僕はようやく口を開く。
「い、いやぁ、元気してた?最近めっきり寒くなって、体気をつけなよ。じゃ」
この場から一刻も早く立ち去りたくて、早口で完結させた。風がやけに冷たくなってきた。全身に血が凄いスピードで巡っている今の僕には、とても丁度良い風。
「ばか!」
君は何か言いたそうな表情をしてから、そう一言僕に浴びせた。ばかと言ったその表情は本気で怒っていてとても怖い。さらに目を見れなくなってしまった。
「なんなの!久しぶりに会ってその態度、失礼すぎるでしょ!」
おっしゃる通りです。はい。
「そういうところ本当に変わってない!」
「え?」
思わず、顔をあげ目を見つめてしまった。綺麗な瞳とかじゃなく、三角形をした君の瞳から口元へ目線を落とす。僕の頭の中でもう一度同じ言葉が君の声で繰り返される。
「嫌な事はすぐに顔に出る!そして向き合わず、逃げ出そうとするその姿勢!!そこが一番嫌いでした!」
はっきりした口調で、浴びせられる刺々しい言葉。今にもうちのめられそうです。いや。もうすでにうちのめされてます。もう本当に、2回目ですが、おっしゃる通りです。
「何回も注意したよね?!なんでなおってないの?!半年間何してたの!?」
いやぁ、公衆の面前でこんだけ怒られてるのは僕だけのような気がする。そもそもこんな状態を招いてしまったのは、僕なんだけれど。
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