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「…少し、待ってて」
言いたいことを全部吐き出したのか、君は一息呼吸をして僕にそこのベンチに座るよう指示してから、近くのコンビニに入っていった。僕の心はすでにボロボロです。
「はい。ミルク入れてあるから」
数分後、2つカップを持って左手に持っていたカップを僕に渡してきた。ブラックコーヒーが飲めないこと未だに覚えていてくれたのかと、少し嬉しくなりカップを受け取る。暖かいミルクコーヒがボロボロになった心に染みわたる。
「あ、ありがとうゴザイマス」
「どういたしまして」
そう言いながら君が僕の右隣に座る。懐かしい存在が隣にいる。不思議と落ち着くが、君に悟られないように必死で隠すしかない。
「さっきはごめん。昔のクセが抜けなくて。私も人のこと言えないね」
謝る君に驚き、君を見つめざるおえなかった。君のごめんという言葉を聞くのは、本当に随分の昔のことだったような気がする。確か付き合ったばかりの頃。お互いにまだ遠慮があって、【ありがとう】と【ごめん】はちゃんと伝えあっていた。それがいつの間にかなぁなぁになってしまい、そんな気持ちお互い持ち合わせなくなってしまった。
「私ね、来年結婚するんだ」
その言葉を聞かされ、目線を外した。外した目線の先には、君の左手の薬指。確かにそこにきらりと指輪が光っている。目に沁みてあわてて目線を僕のコーヒーカップに移す。
「へ、へぇー。良かったね」
声が上ずりそうになり、咳払いをしたあとそう言った。君は少しほっとしたように笑った。
「あんな別れ方しちゃったから言えなかったけど、ありがとう。私と付き合ってくれて。嫌な所もたくさんあったけど、好きだったのは変わりない。本当にありがとう」
何も言えなくなってしまった。まぶしく笑う君に何も言えない。僕はまだ暗い海をさまよっている。
「こちらこそ。…シアワセニナッテクダサイ」
「もちろん!」
正直淋しい。僕はまだ溺れたままなのに、君は前に進んでいる。この事実が。
だけど、なんでなんだろう。どこか安心している自分がいる。
“ありがとう”
なんだかこの言葉がやけに心をほっとさせる。
君が幸せだったら良いかとも思う。少し光が見えてきたような見えないような、でも息が出来る所までは来たと思う。
「あ、あのさ。ありがとう。話せてよかった」
自分でも驚いた。言うつもりはなかったこの言葉。君が目を丸くして僕を見つめるから、目を反らした。そしたら君は「アハハ」と声をあげて笑っていた。
朝が来た気がする。ずっと明けないと思っていた夜が明けた気がする。
あの日と変わらず上に広がる夜空。やっぱり空は偉大だと思う。
手に持ったコーヒーカップが空になる頃には、僕達は笑いながらサヨナラをした。
~完~
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