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しかし、徹は目の前の本田医師のただならぬ雰囲気に気付いてしまった。何かがおかしい。何か本田医師から厳しさのようなものを感じた。女医さん特有の厳しそうな雰囲気とか、これが彼女にとって何も特別なものではない日常であるとか、そういう事ではない。何か、本田医師の覚悟のようなものを徹は感じ取ったのだった。
恐る恐る、徹は顔を上げた。本田医師が徹を見下ろしていた。
「お子さんは無事に生まれまし、お母さんにも何の問題もありませんでした。」
本田医師は言った。
「ただし、お子さんは毒舌検査の結果、陽性、すなわち毒舌体質者であると判明しました。残念ですが、お子さんは毒舌対策法に基づいて、センター送りとなります。」
徹はタクシーの運転手の言葉を思い出した。
「父親の力が必要になる場面は生まれてからいくらでもある。」
でも、そんな場面はやって来なかった。徹と玲子の子供は法律によって毒舌研究センターへと送られなければならない。もう、二度と子供と関わる事は叶わない。自分には関係のない話だと思って考えもしなかった絶望は、今はっきりと現実となって徹の前に姿を現したのだった。
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