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僕が高校に入学して二ヶ月が経った頃だろうか。家に帰ると母さんが求人情報誌を読んでいた。
「ど、どうしたの、急に」
ただいまを言うより先に驚きの声が出た。それもそのはず、母さんが働いてのを僕は見たことが無かった。それどころか母さんの口から「働く」なんて言葉すら聞いたことが無かった。
「あぁ、お帰り。ちゃんと手洗いとうがいした」
「いや、まだだけど、えっと、だから、どうしたの!」
思わず言葉が途切れ途切れになる。
「あんたも高校生である程度手が離れるでしょ。それにあんたの大学受験の費用くらい稼がないと。父さんのお給料だけじゃ色々大変なのよ。内緒のつもりで無駄遣いするし……」
求人情報誌に目を落としながらページをめくっている。
「県立落ちちゃう様なお坊ちゃんは早く手洗いうがいしてきなさい」
言われたくない事を言われ、何も言い返せず僕は洗面所で手を洗った。
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