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母さんの職場は宣伝の為に当選が出ると「第〇〇回、当選しました」という張り紙を掲示するようになった。どうやら母さんのアイデアらしい。当選と言っても十万円以下がほとんどだけれど。
宝くじには買うのに良い日というものがあるらしく、母さんはその日に仕事がある場合、朝から気合が入っている。
「今日は戦いの日なのよ」
金運に良いとされる黄色い服を纏い、颯爽と自転車で職場に向かう日が増えた。
母さんの職場は売り上げが上がったらしく母さんの時給が増えて、僕のお小遣いも少しだけ上乗せされた。僕は一ヶ月に一度だけと決めて、千円分だけ宝くじを買うようになった。
自分の受験費用くらいは自分で稼いで両親をぎゃふんと言わせたい。そんな浅はかな考えが上手くいくはずが無く、初めて買って以来一度も当選が無い。幸運の女神の力は我が家には及ばないらしい。
ちなみに父さんの競馬も負けの方が多いみたいだ。
時は経ち、売り場の壁が張り紙で埋め尽くされた頃には、売り場の屋根の『高額当選出ました!』の看板は日光や風雨にさらされて随分と年季が入ってきていた。この当選の時の賑わいを覚えている人はもうほとんどいないだろう。看板なんて見慣れてしまうと存在していないのと同じだ。
僕はと言うと、国立大学の合格発表を翌日に控えていた。共通テストも二次試験も自己採点ではギリギリの結果だった。将来特にやりたい事は無いし、滑り止めの地元の私立大学も合格しているけれど、なぜか不安でたまらなかった。合格しているならしているで嬉しいし、落ちたら落ちたでまた両親から文句を言われ続けるのが嫌だった。
緊張して一日中無言でいる僕に対して、いつも無神経な事ばかり言う両親も流石に空気は読んだらしく、そっとしてくれた。
そして遂に合格発表の日を迎える。
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