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あれから幾度、満月の夜を越えただろう。使者は絶えることなく現れ、しつこく私を月へ連れ戻そうとする。だけど私は、月に帰るつもりなんかない。
「お父さん、ブラドおじさん、今夜もよろしくお願いします」
今宵は月が満ちる。私が改めて頭を下げると、父は一瞬狙撃手の顔になって頷き、おじさんはニカッと笑って熊ポーズで構えた。
「んじゃま、夜に備えてキジ鍋で腹ごしらえしようや!」
「ルナ、お父さんはお湯と野菜を用意しておくから、キジをさばいてくれるかい?」
「またお前はよぉ、父親ならキジくらい娘に任せずにズバッとさばいてやれよ」
「うーん、そうだねぇ、ははは……」
二人が笑いながら家に向かう。その背中を見ながら、この穏やかで大切な暮らしを、絶対に失いたくないと思った。
相棒の猟銃を小脇に抱える。今夜も徹夜になるだろう。私は撃ち落としたキジを取りに、森に駆け出した。
【了】
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