一の満月

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 満月の次の日、父はたいてい昼過ぎまで寝ている。きっと夜通し遠吠えして疲れているのだろう。  彼は森の男とは思えないほど細身で体力がなく、食材となる獣を獲るときも専ら罠を使う。あの父が凶暴な狼に変身するなんて、私は今でもうまく想像できない。  ブラドおじさんの方がずっと、狼男って感じなのになぁ。  そう思いながら見上げると、おじさんは髭もじゃの顔でニカッと笑った。 「これはいつもの、家具の部品。後でおやじさんに渡してくれ」 「分かったわ。いつもありがとう」  受け取った麻袋はずしりと重い。野菜の籠もあるし、私はもちろん父もきっと、これだけの荷物をおじさんみたいに軽々とは運べないだろう。 「こんな森小屋、誰も来やしないだろうけどさ。最近町が物騒だから、戸締まりはちゃんとしなよ」  ブラドおじさんは、建て付けを確かめるように家の扉をギコギコと揺らしてから帰って行った。 「お父さぁん、もう夕方だよ、そろそろ起きたら?」 「うーん、あぁ、もうそんな時間か」  父の寝室のカーテンを開けると、西に傾いた日の光が木の床に差し込んだ。満月の次の日、この部屋も森も、いつもと違う匂いがする。うまく言えないけど、煙と鉄を混ぜたような、ちょっと生臭い匂いだ。  換気しようと窓を開ける。吹き込んだ風で乱れた髪をかき上げると、父の鋭い視線が刺さった。 「ルナ」  とっさに隠そうとしたけど、手遅れだ。低い声で呼ばれた私は、父のベッド脇に歩み寄った。 「さっきウサギをさばいたとき、ちょっと引っ掻かれただけよ……」
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