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そう言い訳しても無駄なことは分かってる。父は私の手をとると、厳しい顔で甲にできた切り傷を観察した。
「血が滲んでる」
「大丈夫、すぐに止まったわ」
「誰にも見られていないね?」
「ええ、もちろん」
父は安堵の息を吐き、私の目を見て口の端を上げた。
「たいしたケガじゃなくて良かった」
父は私のケガに神経質だ。いや、正確に言えば、私の血に。
私の血は白く、山羊の乳のような色をしている。父曰く、これは狼男と人の混血児特有のものらしい。私は町の子たちと遊んだことがないから、自分の血が普通と違うと知ったのは、父が狼男だと知らされたあのときだ。
父は満月の夜、必ずこの家を出て行く。遠吠えは途切れ途切れに聞こえるけれど、一晩中森に響いてるわけじゃない。父はたぶん、夜が更けてから町へ出て、人を襲っているのだろう。
ブラドおじさんが言っていた「物騒なこと」には、父が関係しているに違いない。正体がばれたら、彼は処刑されてしまうかもしれない。父が狼男だということも、私が混血児だということも、誰にも知られてはならない。
森の中に家を建ててひっそりと暮らしているのは、父の仕事に便利だからだと思っていたけれど。本当の理由は、私たちの秘密にあるのだ。
そして。
その秘密の奥には、驚くべき真実があることを、私は十二歳の秋に知ることになった。
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