一の満月

5/5

39人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 そう言い訳しても無駄なことは分かってる。父は私の手をとると、厳しい顔で甲にできた切り傷を観察した。 「血が滲んでる」 「大丈夫、すぐに止まったわ」 「誰にも見られていないね?」 「ええ、もちろん」  父は安堵の息を吐き、私の目を見て口の端を上げた。 「たいしたケガじゃなくて良かった」  父は私のケガに神経質だ。いや、正確に言えば、私の血に。  私の血は白く、山羊の乳のような色をしている。父(いわ)く、これは狼男と人の混血児特有のものらしい。私は町の子たちと遊んだことがないから、自分の血が普通と違うと知ったのは、父が狼男だと知らされたあのときだ。  父は満月の夜、必ずこの家を出て行く。遠吠えは途切れ途切れに聞こえるけれど、一晩中森に響いてるわけじゃない。父はたぶん、夜が更けてから町へ出て、人を襲っているのだろう。  ブラドおじさんが言っていた「物騒なこと」には、父が関係しているに違いない。正体がばれたら、彼は処刑されてしまうかもしれない。父が狼男だということも、私が混血児だということも、誰にも知られてはならない。  森の中に家を建ててひっそりと暮らしているのは、父の仕事に便利だからだと思っていたけれど。本当の理由は、私たちの秘密にあるのだ。  そして。  その秘密の奥には、驚くべき真実があることを、私は十二歳の秋に知ることになった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加