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二の満月
その夜は、父の遠吠えが聞こえなかった。
満月なのに、どうしてだろう。何があったんだろう。もしかして父は、町で捕まってしまったのだろうか。心配で夜通し寝返りを打っていた私は、夜明けを待って静かに地下室を出た。
おそるおそる父の寝室を覗く。すると、父はいつも通りにベッドで休んでいた。けれど、すべてがいつも通りではないことは、空気が語っている。その部屋にも森にも、あの煙と鉄の匂いがしなかったのだ。好きになれない匂いなのに、それがないことに、私はひどく不安になった。
その日父は、赤く充血した目を擦りながら昼前に起きて来た。彼はまず家じゅうの戸締りを点検して回り、その後も頻繁に窓の外を見たり机に伏して考え込んだりと、まるで追手を恐れているかのようだ。
「お父さん、どうしたの? 昨夜何かあったの?」
そう聞いても、彼はつかの間私を安心させようと薄く微笑むばかりで、ちゃんと答えてくれない。そして私が不毛な問答にくたびれかけた昼過ぎ、父はやおら出かける支度を始めた。
「ルナ、お父さんはちょっと町に行って来る。夕方から雨になりそうだし、どうしても今日中に調達しておかなきゃならないものがあるんだ」
父が出かけるときに、こんな言い訳じみたことを口にするのは初めてだ。私の不安はいや増した。
「暗くならないうちに戻ってね?」
「そんなに遅くはならないよ。戸締りをきちんとして、誰かが訪ねて来ても、返事をしないように」
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