二の満月

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 こんな森の中の家に訪ねて来るのは、ブラドおじさんくらいなのに。わざわざ言われたら、余計に気になる。 「誰か……来る予定があるの?」 「そんな予定があれば、家をあけないよ。ただ……父親ってものは常に娘の安全が気がかりな生き物なんだよ」  父は苦笑して、家を出て行った。  そして、彼がいない間に、不気味な訪問者が私に忍び寄ったのだ。 「姫、お迎えにあがりました」  食事の支度をしていたところに背後から声をかけられ、私はびっくりして振り向いた。どこから入ったのか、目の前にはローブを着た小柄な人物が立っている。  誰も入れるなと言われていたのに。口を開きかけた私を、その人は手のひらで制した。 「次の満月の夜、家の外でお待ちください。あの男に気づかれないように。いいですね?」  大きな赤い目が、早口で話しながらキョロキョロと左右違う方に動く。私にできてお父さんにはできないその動作に、目が釘付けになった。 「あなた、誰……?」 「ワタクシは月の王の使者です。姫は何も知らされていないのですね。全く、あの男を養育者にしたのはこちらの手落ちでした」 「あの男?」 「いいですか、アナタはもう月に帰らなくてはなりません」  月に? 月に帰るって、どういうことだろう。思わず見上げると、天窓に切り取られた真昼の青空に、円く白い月がうっすらと浮かんでいた。 「アナタを迎えにきた同胞が、どれだけあの男に撃ち落とされたことか……月の王は大変ご立腹です。ワタクシは昨夜、あの男に見つかる前に、ひっそりとこの地に降り立ちましたが」  話が、見えない。ただ、この人物が言う「あの男」はたぶん父のことだ。彼に敵意を持つ人の話を、あまり聞きたくはない。
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