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戸惑いに瞳を揺らす私を見てニヤリと笑い、使者は自分の腕を長い爪で引っ掻いた。
「ご覧なさい。アナタと同じでしょう?」
どうして知っているんだろう、私の血が白いと。
使者の腕から流れる白い血は、自分と同じなのになぜか、不気味な感じがした。
「我々が同胞である何よりの証です。あの男はアナタを騙し、月に帰れぬよう閉じ込めているのです。姫が十歳になったら月に返す約束で養育を任せたというのに」
「そんなのおかしいわ。だって、私にはお母さんが……」
いる。いや、いたはずだ。言い淀んだ私を、使者は鼻で笑った。
「アナタに母親などいませんよ。それは植え付けられた偽りの記憶です」
ザラリ、と、嫌な気持ちになった。私のことを姫と呼び、口調は丁寧なのに、この人はなぜ私を馬鹿にしたような目で見るのだろう。
「我々は月が満ちた夜にしか、この地と行き来ができません。ワタクシは次の満月まで身を隠しますから、あの男に気づかれぬよう支度をなさってくださいね」
返事をしない私にそう言い聞かせ、使者は窓を開けてひらりと出て行った。
月に帰る? 私が? でも、何のために?
父に聞けば、真実を教えてくれるかもしれない。だけど、もしもはぐらかされたり、使者と話したことを咎められたらどうしよう。何より、私たちが親子であることを彼に否定されるのが怖い。
不安を抱えながらも私は、夕暮れ前に戻って来た父に、結局何も聞けなかった。
切り出すタイミングを失ったまま、幾日も過ぎて。とうとう父と話せないうちに、次の満月を迎えてしまった。
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