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三の満月
今夜ひとつ目の、父の遠吠えが聞こえる。
私はそっと地下室を抜け出した。数時間前、父におやすみを言い、何も知らないふりをして下りた階段を、忍び足で上る。
父を欺くつもりも、月へ行くつもりもなかった。私はただ、真実が知りたかった。
ガオーーン
ガオォーーーーン
あの音は、父の遠吠えなどではなかった。彼が撃つ猟銃の発砲音だったのだ。そっと扉を開けて家を出た私は、そのことを初めて知った。
父は屋根の上にいた。狼ではなく人の姿で猟銃を構え、じっと満月を睨んでいる。月の光に照らされたその横顔はいつもの柔和な父ではなく、冷酷な狙撃手のようだ。
月に黒い影が映ると父は照準器を覗き、狙いを定めて容赦なく引き金を引く。撃ち落とされたものが森に落ちても彼は顔色を変えることなく、再び月を見つめて静かに佇む。
十二年間、毎日見てきた父とはまるで別人だ。私は少し怖くなりながらも、その姿から目が離せなかった。
「姫、お待ちしておりました」
背後から声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。振り向くと、月の使者が私を見上げている。
「さあ、あの男が囮に気を取られているうちに、こちらへ」
「待って、私、月に行くって決めたわけじゃないの。ただ……」
差し出された手を振り払うと、使者は突然その手で私の首を絞めた。
「ひ……っ?!」
圧迫された首の痛みが、すぐに息苦しさに変わる。片手で掴まれているだけなのに、引き剥がそうとしてもびくともしない。頭の血管が破裂しそうに脈打って、意識が朦朧としてきた。
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