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大人の章
「許しておくれ」
父親は泣いていた。
「子供たちよ、どうか無事で……」
そして知っていた。彼の願いが、到底叶うべくも無いことを。
「どうか、どうか……」
彼の子供は双子の兄妹。森に飲まれた哀れな双子。
「どうしてあの時……」
彼の後悔は、一体いつまで遡る?
「あの時……」
子供を置き去りにした時か?
「違う」
置き去りにすると、決めた時か?
「違う」
或いはもっと前、双子のためにと継母を連れてきた時か。
「ああ、そうだ」
双子の継母、彼の妻。
「どうして……」
美しかった彼女が、変わってしまったのはいつだったか。
「飢饉が、起こったから」
初めに無くなったのは、父親の食べるもの
「仕方がない、どこに行っても食べるものなんて売っていないんだから」
次に無くなったのは、父親の商売道具
「仕方がない、斧を売ってでも食べ物を買わなきゃならなかったんだ」
最後に無くなったのは、父親の大事な宝物
「仕方がない、そうでもしなきゃ、あいつは子供達をを殺してしまう」
小さな小さな小屋の中。
後悔に咽ぶ悲しい大人のおはなし。
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