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西暦21XX年。人口激減の危機に瀕した人類は、地球に現存する生命を守るため、様々な種子やDNAを保管しておく施設を各所に設置した。中でも月に設置したものが最も大規模であり、地球上の半数以上の生命の保管庫となり得た。
『NOAH』と呼ばれたそこには、希少種の種子や遺伝子のみならず、希望した人間の体細胞サンプルまでも寄せられるようになる。事故や病気で四肢切断、もしくは臓器移植等が必要になった際の再生手術に利用するためだ。
現在は研究機関も併設され、『生命の牧場』とまで呼ばれるようになる。
その所以は、『NOAH』が、クローン事業を打ち立てたからだった。
人口の減少をくい止めるため、各国政府はそれまでのクローン技術に関する法を一斉に改定し、ヒトのクローンを全面的に許可した。
現在は子どもが1人以下の家庭においては、2人までクローンを生成し、実子として養育することが認められている。
『NOAH』はそんな時流に一早く乗り、クローン事業における第一人者となった。
ここまでが、表向きの事業。
だけど裏では、もう少し先まで進めている。それは、『複製』だ。
クローン生成はあくまで対象の人間を作り出すこと。代理母から赤ん坊として産まれたら、その後は自然出産と同様、顧客に養育される。
だが『複製』は文字通り、特定の人間を複製する。それまで生活していた記憶、身につけた技術、身体的特徴、感情、趣味嗜好などのパーソナルデータすべてが再現された人間。そのための培養設備、そして特異なラーニングシステムをNOAHが開発済みだという情報を得ていたのだ。
クローンとして赤ん坊を増やすことは認めているが、同じ人間の複製までは認めてられいない。私はその情報を漏洩しないことを条件に、複製の生成を希望したのだ。
月の施設で一年をかけて極秘裏に培養・ラーニングを施し、今日”引き渡し”だ。
『NOAH』から指定されたターミナルにて、指定時間の数時間も前から待っていた。やっと、息子に会える。
到着ゲートの向こう側を、覗き込むようにしてじっと見つめた。
すると開いたゲートの奥から待ち望んでいた人影が見えた。他の人影とは違う。事前に提供していた直哉の服を着て、直哉と同じ髪型に揃えている。
間違いない、直哉だ。私の息子だ。
「直哉……!」
ゲートを通った瞬間、体が意識を超えて走り出していた。
抱き締めた感触までが息子そのものだった。私は、あの子を取り戻したのだ。
そう思った瞬間、ぐっと体が押し返された。
直哉は驚くでもなく嫌がるでもなく、何の感情もない表情で私をじっと見つめていた。
「『お母さん』ですね」
「え、ええ、そうよ」
そう答えると、直哉は手に持っていたスーツケースを置き、居ずまいを正した。
「初めまして、お母さん。僕は直哉の体細胞から生成された、直哉の再現体です。IDの下3桁が『708』なので、どうぞ『ナオヤ』と呼んでください」
「……え?」
いったい何事か、わからない。
私に向けて礼儀正しくお辞儀して、右手を差し出すこの子は、直哉ではない。それなのに顔も声も体格も、すべてが直哉と同じ。
この男の子は、いったい誰なのか……。
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