M-other

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「どういうこと? 私が、また一人に?」  この子が何を言いっているのか、まったくわからない。  そして、どうして悲しそうな瞳をしているのかも、わからない。  大怪我を負ってはいるけれど、一命はとりとめたというのに。 「僕は母さんの要望で、わずか1年で15歳になりました。DNAを操作し、成長速度を速めたのです。15倍の速さでね」 「15倍……」 「だけど、まだ速める事しかできません」  その言葉の意味することが、はじめはわからなかった。徐々に見当がつき始めるとともに、ナオヤの瞳も悲しげに曇っていった。 「僕の成長速度は、15倍のままなんです。2日で約ひと月。ひと月で1年ほど。1年で、およそ15年の歳をとります。平均寿命から考えて、今後普通の生活を送ったとしても、おそらくあと4年ほどの命です」 「4年……!?」  信じがたい思いで見つめる私に、ナオヤは頷いた。 「だから母さん。僕ではなく、新しい『直哉』を……」  そこから先は聞こえなかった。私が抱き締めたせいだ。両腕の中で戸惑う声が聞こえる。 「新しい『直哉』なんて言わないで。あなたはここにいるじゃない」 「僕はもう直哉どころか、ただの人間としても役に立てません。四肢が欠損し、視力も……」 「そんなもの、再生治療で治せるわ」  耳元で、息を呑む声が聞こえた。 「月には直哉の体細胞サンプルがある。この怪我も治せるし、臓器移植も、もしかすると老化の対策も……」 「待ってください。確かに月にはサンプルがありますが、それは直哉のためのものです」 「それなら、あなた(・・・)のものだわ。あなたは『直哉』なのだから」  ナオヤは、再び言葉を失くしていた。言葉の代わりに、温かいものが頬を伝い、私の肩口に染み込んでいった。力なく投げ出されていた腕を懸命に起こし、かろうじて私の背に触れた。抱き締めようとしてくれているようだった。 「私と、家族になりましょう。そして今度こそ私を一人にしないで」  背中に触れた手は、それ以上力が入らなかったようだ。 「わかりました。僕は……『直哉』なのですね」  そう呟くと、ナオヤの手はゆっくりと静かに私の背から滑り落ちた。
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