芸術家

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芸術家

 わたしは、かわいいお姫様。  兵士と妖精は遠くの棚から、  特等席のわたしをじっと睨んでいる。  しょうがないじゃない。  わたしは彼女の代表作なんだから。  こんなわたしだから分かる。  今日の彼女はなんだか変だ。  筆を持つ手が震えていて、呼吸が荒い。  「こんなもの……こんなもの……!」  彼女の筆先が、新人の顔にバッテンをする。  「そうだ! これなら、見てもらえる!」  彼女はインクの蓋を勢いよく開けて、兵士と妖精がいる棚に向かって次々と投げつけた。  カラフルな飛沫は空間に色を塗るよう無差別に、楽しそうにその身を広げていく。  兵士の右半分は青く、妖精の顔は黄色く。  彼女の顔は歓喜の色に染まっていく。  不意に、わたしと彼女の目があった。  彼女はいつもみたく、  わたしに優しく微笑みかけた。  
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