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消えた少女と探せない彼と 1
何かを探していると、それがなんだったのか分からなくなるんだ。
日も傾きかけた放課後、いつものように図書室でぼんやりと本を読んでいると、いつもは見ない顔が目の前に座り、そう言い放った。
突然現れ訳の分からないことを言い出す奴はどんな野郎だと、顔だけでも見てやるかと目だけ向けてみたが、夕日の逆光で顔は分からなかった。
「なんで僕のところに来たの?」
夕日で紅く染まったソイツは、ただえらく背が高いなという印象だった。それに反して、やたら小さい陰が隣にあるから、随分とまあ凸凹な2人組だと、顔が見えないのを良いことにぼんやりと考える。
大きい方が、身を乗り出すように机に肘をついた。
「超能力があるんだろ?」
「君、そんな噂、本当に信じてるわけ?」
友達付き合いが苦手というか面倒で、いつも本ばかり読んでいる僕を揶揄うために出来たような噂だ。
超能力や幽霊などオカルト全般の本や、過去の未解決事件や犯罪心理の本ばかり読んでいた僕にももちろん原因はあるだろうけれど。そんな奴らに良いネタ提供をしたという意味で。
だけど、そんなくだらない噂を真に受けるような奴が存在するなんて思わなかった。いや、顔も見えていないし、ただ揶揄っているだけかもしれなかった。
「信じてるから来たんだ」
相変わらず顔は見えないが、声は至って真剣だった。見えないとなると、一体どんな馬鹿が来たんだろうとますます顔が拝みたくなってくるから不思議だ。
「あるのか?ないのか?」
「ある訳ないだろ」
そう即答すれば、困ったように肩を落とす。邪魔して悪かったな、そう残念そうに言うと席を立とうとするので引き止める。
それは親切心なんかではなく、純粋な好奇心からだった。
「ねえ、それ、不思議な話?なら興味あるな」
馬鹿にされたとでも受け取って怒るだろうか。言った後でそんなことを考えたけれど、目の前の相手の反応を見てそれはなさそうだな、と自然と口角が上がる。
日が落ちきり、薄暗くなった中初めて見えた相手の顔。たしか、隣のクラスのいつも人に囲まれて賑やかにしてる奴だ。
その表情はいつも見る馬鹿みたいに楽しそうな顔とは違い、不安と少しの期待が浮かんでいた。
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