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何かを探していると、それが何か分からなくなる。
それは単純に忘れっぽいとか、そういう次元ではなさそうだった。
探しものはなんでも構わない。あのさ、この前使った○○はどこにしまったっけ?とか。△△を見かけなかった?とか。××がいないから探してくれる?とか。モノでも人でも、どんなことでも『探す』という行為に対して記憶を保てないというのだ。
約束を忘れるとか、忘れ物をするとか、相手の名前を忘れるとか、そういうことは一切ない。ただ、何かを探している時に、何を探しているのか、それ以前に探していた事実すら忘れてしまう。
綺麗に忘れてしまうのだから自覚はないけれど、あまりに周りに指摘される上、全く身に覚えがなかったのでだんだん恐ろしくなったという。
「でもさ、探してる時だけなんだろ?そう頻繁に何かを探すわけでもないし、そんなに困らないんじゃない?」
面白い話ではあるけれど、かなり限定的だし、そう困ることでもないんじゃないか。現に、目の前の彼はいつも人の輪の中で笑っている印象が強いのだ、そこまで真剣に困っているとも思えなかった。
「昔から、何かを忘れてるなとは思っていたんだ。俺がそう思う時、何かを探している時なんだよ」
「何かって?」
「分からない」
「いつから?」
「小学生くらいの頃から、かな…」
曖昧な回答の割に、頭を抑え顔をしかめる素振りをする。まるで思い出すのを脳が拒んでいるようだった。
下校時間はとうに過ぎていたので、並んで校舎を後にする。その間にもいくつか質問してみたが、あまり要領は得なかった。
どこの小学校?どのあたりで良く遊んでいた?どんな遊びが流行っていた?担任の先生の名は?クラスは何組?仲の良かった子の名前は?同じ中学に来たのは他に誰がいる?
スラスラ答えられるものもあれば、抜け落ちたように、単語すら出てこないものもあった。
意外なことに、彼の家は中学から程近いところにあった。住宅街の中にある、ごく普通の一軒家だった。
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