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 今から6年前。僕らが小学3年生の時。この辺りでちょっとした騒ぎになった事件があった。  被害者は同じく小学3年生の女の子。加害者は不明。未だに犯人は捕まっていない。  少女は他の友達と遊んでいる最中に忽然といなくなり、首のない死体だけが発見された。その首は今も見つかっていない。  未解決事件を調べるのも趣味のひとつのような僕にとっても、身近で起きたこの事件は印象深いものだった。  だから、目の前の少女が、この事件の被害者の女の子と全く同じ顔をしているのにも最初から気が付いていた。 「君はアイツを恨んでるわけじゃなさそうだよね?」  声を掛けても、特に反応はない。  彼らに話しかけるのは初めてではないけれど、一度も会話は成立したことはない。彼らは口が効けないのだ。  でもまあ、答えなんてどうでも良かった。少女の彼を見る目が恨みを含んでいないことくらい、見れば分かることだった。 「じゃあ、どうしてアイツのそばに居るのかな?」  言葉を理解できているかは分からない。じっと僕を見つめた後、ゆっくりと歩き出す。着いて来いと言うことなのだろう。  すっかりと暗くなった空は、真っ暗な海の底のようだった。ゆるやかに流れる夜の雲は、まるで打ち寄せる波のように。雲の隙間からは、時折鋭く欠けた月が見え隠れしていた。  少女に連れられて来たのは、小学校裏の少し古びた一軒家だった。木造で縁側でもありそうな、良く言えばレトロで、悪く言えばお化け屋敷のような。  ここがどうしたのかと目を向ければ、家の裏手に回り込み、勝手口まで連れられる。木が生い茂る中にある勝手口は、街灯も少ないこともあってか、そこにあると言われなければ全く気が付かないほど存在感は希薄だった。  ぼうっとしていると、少女が勝手口をすり抜け中へと入って行く。それに気が付いた頃にはもうすっかり中に入るところで、着いて来いとでも言うように、手招きしていた。  どうしたものかと少し迷った後、勝手口に手をかければ元々壊れていたのかあっさりと扉は開く。庭は雑草が膝まで伸びきっていて、屈めば体は埋まりそうなほどだった。これは不法侵入だぞ、そう考える反面、不思議な状況に僕の胸は高鳴っていた。  手入れを全くしていない庭の雑草をかき分け、少女の導くままに他人の家の中を進む。灯は着いていたけれど、住民の気配は全く感じられなかった。  他の部屋よりも薄暗い電球の部屋の窓の前で、少女は立ち止まる。指差されるままに中を覗き込み、そこで僕は少女の行動の意味を理解した。  壁一面に置かれた本棚に、並べられた数え切れないほどの首。  美容師が使うような、明らかにマネキンのようなものから、本物と見間違えるほどに精巧なものまで。たくさんの首が綺麗に整頓されていた。  このうちのいくつがダミーで、このうちのいくつが本物の首なのだろう。 「みぃつけた」  一体何人の人を。  それは分からなかったが、目の前の少女の首がそのうちのひとつであることは、紛れもない事実だった。
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