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「暗くなっても見つからなくて、もう帰ったんだろうって、みんな気にしなかった。一緒に遊んでた先生も、親には連絡しておくから大丈夫だって」
「でも、君は気になった」
「うん、そう。あの子、最近誰かに見られてるみたいだって言ってたから、気になった。でも、みんな大丈夫だって言うから、おれも帰ったんだ。探さなきゃ、いけなかったのに」
段々と、質問に答える彼の呼吸が荒くなる。確信に近づいているのだろう。可哀想だと思いながらも、静かに淡々と問い続ける。
「どうして探さなきゃいけなかったの?」
「おにだったから、見つけなかったから、探さなかったから、あんな、あんなことに」
「あんなって、どんな?」
「首だけ、見つからなかった」
どんな?と言う問いに彼は答えなかった。おそらく、答えられなかったのだろう。
「首を探してるの?」
「せめて、それだけは、おれが見つけてあげないと。でも、いくら探しても、どこを探しても、見つからないんだ、どこにもないんだ」
その言葉に、足元にしゃがみ何を考えているのか分からなかった少女が立ち上がる。呼吸が荒く、取り乱す彼の額に触れようとしたところで、それを止める。僕はそのために、催眠術の真似事をしているのだ。
「いい?僕の目を見るんだ」
強く低く、彼に声を掛ける。催眠術でやや虚ろな目で、それでも言われた通りに彼は僕を見る。
「君は、探さなくていいんだ」
言い聞かせるように、強く、はっきり、ゆっくりと繰り返す。
「君は何も悪くない」
何度も、繰り返し、同じことを、脳に刻み込まれるまで。次第に、粗かった呼吸も落ち着きを取り戻す。
深くゆっくりとした呼吸になる頃、僕は最後の仕上げをする。
「君はあの日、鬼ではなかった」
「君はあの日、かくれんぼをしなかった」
「僕が3つ数えたら、君は元の中学生だ。今話したことは深く沈めて、思い出してはいけない。いいね?」
コクリと頷いたのを確認し、僕はゆっくりと3つ数える。
数分後、意識がはっきりとした彼は、僕の言った通りしっかり何も覚えていなかった。
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