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母親の代わり
「お前はまだ社会人になったばかりだから、まだ結婚しろって話は出ないよな、羨ましいよ」
そんな話をなんの気無しにした日、彼は母親が既に病気で亡くなっている事を話してくれた。彼が高校生だった時の話で、壊れる程に涙が溢れてきたらしい。彼にはもう、自分の秘密を打ち明けようにもその相手がいないのだ。
「じゃあさ、俺がお前のお母さんになってあげるよ」
そんな言葉が自然と出てきた。寂しい猫のような彼を、愛で撫でてあげたいと思ったのだ。
「何それ、気持ち悪い」
彼はそう言ったけれど、広角は上がっていた。
僕は僕の生き方を母親に認めてほしかった。けどそれをただ待つのではなく、自分が彼に施そうと思えた。欲しいと願う前に、まず自分から与えるのだ。
彼は最近仕事を辞めるかどうかで迷っていた。第一志望の業界に行けず今の仕事に就いたが、やはり諦めきれないのだと言う。僕は、まだ若いのだから後悔しないように行動したらいいと後押しをしたが、彼は
「一度失敗しているし、もう一度チャレンジしても成功するとは限らない」
「今の仕事をわざわざやめたのに、夢が叶わなかったら恥ずかしい」
と言った。
僕は、不安な気持ちは十分わかるけど、失敗したら恥ずかしいという気持ちはわからないし、自分がした選択の結果がどうあれ、それを恥ずかしいと思ってしまうような生き方だけはして欲しくないと心から思った。恥ずかしいと思ってしまう事が1番悲しい事だ。
彼にその想いを伝えようと言葉を選んでいる時に、ふと気付いたことがあった。
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