水曜日のにおい

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 学食で涼が胡椒のキャップを開けた。今まさに醤油ラーメンに胡椒を振ろうとする瞬間を、わたしは狙っていた。 「先週の金曜日、合コンだったんでしょう」  ラーメンの丼の真上で、胡椒の瓶が止まった。涼がゆっくりとニキビの消えた顔をあげた。いっその事、胡椒の中蓋が外れてしまえばいいのに。 「えっ、違うって。ただの飲み会だよ」 「同じゼミの桜子ちゃんから聞いたの」  桜子の目の奥が、好奇心で黒光りしているのが、余計わたしの怒りに拍車をかけた。  サークルの飲み会と言って嘘を付かれたのが許せなかった。だからと言って、合コンに行ってきますと、堂々と参加表明をされるのも、許されるわけではない。  胡椒のキャップを閉めた涼は、食堂のテーブルに両手を付き、頭を九十度下げた。おでこがゴツンとテーブルに当たる。 「ごめん! メンバーが足りないって先輩に言われたんだ」 「桜子ちゃんの友だち、涼のこと気に入っていたみたいだよ」 「彼女いるって伝えたよ。みのり、信じてくれよ」  涼がしきりに丼の中をチラチラと覗いている。この期に及んで、醤油ラーメンの麺が伸びないのか、心配しているのだろう。わたしは涼が来る前に、Bランチのフライ盛り合わせをきれいに平らげた。 「でも、ラインは交換したんだ」 「その場の雰囲気で断れなくて。本当にごめん!」  水曜日四時限目の教室は隣のキャンパスだ。移動時間を計算し、わたしはトレーを持った。 「もう行くね」 「みのり、映画行こうな。ご飯も奢るから」  返事をせずに食堂から渡り廊下を歩いた。置いてけぼりを食らった涼は、いつものように伸びた麺をすすっていた。
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