変わらない一日

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変わらない一日

「おはよう、お父さん」 「おはよう、レナ」 いつもの朝。 お父さんに挨拶をして、椅子に座る。 お父さんが焼いてくれたパンを、お父さんと一緒に食べる。 幸せな一日の始まり。 この家には私とお父さんしかいない。 二年前にお母さんを事故で亡くしてから、お父さんの別荘で暮らすようになった。 周りは森に囲まれていて、町からもかなり離れている。 友達はもちろん、町の人たちにも会っていない。 でも、寂しくはない。 お父さんがいるから。 「ねぇ、お父さん」 「なんだい?」 「今日、南の森へ散歩に行きたい。こないだ見つけた花が気になるの」 「そうだなぁ。じゃあ、一緒に行こうか」 「うん!」 散歩の準備を済ませ、扉の前でお父さんを待った。 「お父さん、早く!」 「今行くよ」 扉はお父さんじゃないと開かない仕組みになっているから、一人では外に出られない。 お父さんが作ったドア。 お父さんは技術者で、何でも作れるすごい人なんだ。 外へ出る。 空を見上げる。 雲一つない素晴らしい天気だ。 ……あれ? 「あれ?」 「どうかした?」 「お父さん、あれ、ウィングさんじゃない?」 空から鳥の足につかまり、こちらにやってくる影を指す。 「あら、ほんと」 そうこう言っているうちに、彼は私たちの前に降り立った。 鷹よりも大きな鳥は、翼をたたむと梟くらいの大きさになった。 これは本物の鳥ではなく、移動用に作られたAIが組み込まれた鳥。 もちろんお父さん作。 「出かけるとこだった?」 「そうだよ。今日約束の日だっけ?」 「いや。でも、こないだ渡したのがすぐに必要になっちまって。治ってるか?」 「あと少しだけど、今すぐじゃないとだめなの?」 「ああ、頼む!」 「娘との大事な時間なのに」 「いいよ、お父さん。ウィングさんは今じゃなきゃダメだけど、私たちはいつでも行けるから」 「レナがそういうなら……。中に入って待ってて」 「ありがとう。今度、高級な食材手に入れてくるから」 お父さんはやれやれといった様子で、ウィングさんを招き入れた。 ウィングさんはお父さんの親友で、機械の修理を頼む代わりに私たちの食材を調達してくる。Win-Winの関係というやつだ。 「ありがとう、レナちゃん。本当に君はよくできた子だな。……本当に」 「ウィング」 たまにこの二人にはこういうことがある。 つまり、アイコンタクトをすること。口ではなく目で話すこと。 「すぐ終わらせるから待っててね」 私の頭を撫で、仕事部屋に入っていった。 「ごめんなぁ、邪魔してよ」 「私は気にしてないよ」 「どこ行こうとしてたんだ?」 「南の森。珍しい赤い花を見つけて、また見に行こうと…あ、そうだ!ウィングさんも仕事が終わった後、一緒に行かない?ちょうど、ウィングさんの髪みたいな色なの」 「え、俺の?」 「うん!」 「うーん、でも一日に二往復以上するのは危険が……」 「何の?」 「ああ、いや、こっちの話!悪いけど、またの機会でってことにしてくれ」 「残念だけど、仕方ないかな」 確かにウィングさんがうちに来るのは定期的に日を空けてだった。 もっと、くればいいのに。 「レナちゃんは最近変わったことは?」 「特には。あ、そういえばこの前、目が見えづらくなっちゃったの。でも、お父さんが私が眠っている間に治してくれたの!」 「それはよかったな。お父さんのこと好きか?」 「うん、大好き!私もお父さんみたいに何でもできる人になりたい!」 「だとよ、お父さん?」 ウィングさんは私の後ろを見ていた。 お父さんが仕事を終えたのだ。 「ありがとうレナ。嬉しいよ。でも、レナは僕よりももっとすごい大人になれるよ」 私も嬉しかった。 だけど、そんな私たちを、ウィングさんが酷く心配そうに見ていたことは気のせいだろうか。 「いきなりだったのにありがとよ」 私たちは外に出てウィングさんを見送ろうとしていた。 「ルイ、ちょっと」 そう言うと二人は庭の真ん中あたりに離れていった。 私にここで待つように言って。 でも、それはあまり意味のないことだった。 なぜなら私はとても耳がいいからだ。 「最近またAIロボットに対して規制が厳しくなった。特に人型ロボットは処分の方向で動き始めてる。それに加えてお前の技術もどっかの組織に狙われている」 「何が言いたいの」 「俺がここに来ること自体お前らにとって大きなリスクだ。俺も気を付けてはいるが、いつ目をつけられてもおかしくない」 二人とも険しい表情で、声色で、普段の二人ではないようだった。 私も、二人の話を聞いてしまって、お父さんが狙われていると聞いて、どうしたらいいかわからなくなった。 確か、AIロボットはお父さんも開発に携わっていて、色々あってやめて……あれ、何があったんだっけ。 ブー!ブー!ブー!! その時、お父さんのポケットからアラーム音が鳴り響いた。 よくないことがこれから起ころうとしている。それだけはわかった。 変わらない一日が終わりを告げた。
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