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ああ、幸せだなぁ
「レナ!早く家に入れ!!」
お父さんが必死に私に叫びかける。
お父さんのこんな声、きいたことがない。
言われるままに私は家に向かって走ったが、一歩遅かったようだ。
「やめろ!!やめてくれ!!!」
お父さんの叫び声と共に、銃声が上空から鳴り響いた。
何発も。
それは、私の手足胸に命中し、私は訳も分からず倒れこんでいた。
すぐにお父さんが来てくれて、私を抱き支えてくれた。
「レナ、レナ、大丈夫か?レナ、ごめん、すぐに、すぐに直すから」
酷く動揺し、目に涙を浮かべて、呼吸も荒い。私はお父さんのこの姿をどこかで見たことがあるような気がした。
「お父さん、私は、大丈夫だよ」
痛みもそれほどなかった。
声もはっきり出た。
それも、そのはずだった。
「そこから一歩も動くな。この男のためを思うなら」
目を向けると、ウィングさんが男に捕らえられていた。
銃口を突きつけられて。
ウィングさんの鳥も男が乗っていた鳥に押さえつけられている。
「俺のため?そんなの考えなくていいぜ。俺はヘマしたんだからよ」
「黙ってろ」
「でも、どうして……いつからだ」
「最初からだ」
「!まさか、今日至急機械が必要になったのって」
「お前の客にひと芝居打ってもらった」
「チッ、そういうことかよ」
相手は二人だった。
今喋った方が、30代くらいの目つきの悪い短髪黒髪の男。
私を撃った方が、20代前半くらいの活発そうな金髪の男。
「それよりエースさん。本当に彼女ロボットッスか?なんか血みたいの流れてるんスけど」
ロボット…………?
「ああ、それはルイ博士による―」
「黙れ。レナはロボットなんかじゃない。俺の娘だ」
怒ってる。
とても、とても、怒っていた。
歯を食いしばって。
「ルイ博士。あなたの娘は、死んだでしょう。二年前に、奥さんと」
私は、死んだ……?
「だまれ、死んでない、ここにいる。レナはずっと今まで、これからも」
「ルイ博士。人間は死ぬんだ。死んだら、決して生き返ることはない。それが世の理だ」
「…………」
「しっかし、よくできてるッスね。まるで本物ッス。本物に限りなく近い偽物ッスけどね」
にせもの……。
「AI人型ロボットは処分しなければならない。そして、あなたの存在もとても危険だ。だが、我々に協力してくれるのであれば、すぐにそのロボットを直してもいい、と言ったらどうする?」
私は目の前の男を見た。
とても、とても、辛そうな、悲しそうな、寂しそうな、そんな表情をしていた。
私はそれを見て、何を思っているのか、わからなくなってきた。
私は、理解した。
私は、ロボット。
ルイによって、レナに似せて作られた、ルイだけのロボット。
理解した。
そんなロボットのために、ルイが嫌な思いをする必要はないことを。
「私は、あなたに作られたロボット」
「な、に言って」
「この記憶も感情もすべて情報。データで作られたもの」
「違う!そんなこと言うなレ―」
「私はレナじゃない」
レナじゃないけど。
「レナじゃないけど、レナの代わりにあなたと生きてきて、あなたのことがとても、とても大好きなの」
大好き。
この気持ちも、データなのかな。
「大好きなお父さん。私にとってもお父さん。お父さんにとって、私はレナ?」
お父さんは泣いていた。
泣きながら首を振っていた。
「ごめん、ごめんよ。僕にとって、君は、君は、レナじゃない。……二人目の娘だ」
「ありがとう、お父さん。……レナはお父さんの中で生きてるよ。そして、私も」
だから。
「だから、お父さんは大丈夫!」
にっこり笑ってみせる。
正直ちゃんとできているかわからない。
もう動く部分も少ない。
それでも笑いたかった。
「……ありがとう」
お父さんも笑ってくれた。
眉を下げて、あの優しい笑い方。
ああ、幸せ、だ、だ、ッ、、、、━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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