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「今日はお迎えあるの?」
「あ…はい」
「仲良いわねぇ」
クスクス笑う女将さんに恥ずかしくなりながら「お先に失礼します」と頭を下げて、お店を出た。
5月末の初夏ではあるが、頬に吹きつける風がまだどことなく冷たい。
真っ先に探してしまうのが、彼の姿。
いつもならお店のお向かいに立っているはずなのに。
「あれ……」
期待に膨らんでいた心が、急速に縮んでいくのが嫌なほど分かる。
近くの珈琲屋さんで勉強しながら待ってるって言ってたけど、まだお店なのかな。
「しずっ」
声がする方に振り向くと、数十メートル先から走って来た。
「ごめん!アラームかけるの忘れてて気付いたら時間過ぎてた」
「ううんっ、それは大丈夫」
彼は満足気に笑った。
無遠慮なまでに太陽の煌めきを放ち、見てるこちら側まで綻んでしまうほどに温かい。
「待たせたお詫び。あとお疲れさま」
手渡されたのはコンビニ袋に入ったパックジュースとストロー。私の好きな、いちごミルクだ。
「買わなくていいって言ったのに…」
「自分の買い物ついでだよ」
「…ありがとう」
好きだと話したことはない。
しかし彼は当たり前のように、いつもそれを買って来てくれるのだ。
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