戸惑いのキスから鬼ごっこ

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ちょこっとだけ離れた隣のブランコに彼もまた腰をかけ、少し脚を伸ばすと吊り具が金属の擦れた音をたてた。 人気はないけれど、明るい街路灯が小さな敷地にある数少ない遊具を優しく照らし、砂場には忘れ物であろうカラフルなスコップとバケツが無作為に転がっていて。 留紺の夜空に薄雲がたなびき、頭上の枝葉がふわりとそよぐ。 ライトの放光により樹木の梢が地面に斑点の影を描き、その薄暗い影の中に自分たちが収まってしまうのだけど、太陽が隣にいると暗闇の怖さなんて無に等しくなる。 手を伸ばせば届くこの距離感と、包み込まれたような空間が、とても好きだ。 「寒くない? あったかいもんにすれば良かったな」 「ううん、平気。買ってくれてありがとう」 ジュースパックの表面の結露をタオルハンカチで拭いた後、ストローをさして一口飲む。 まだ心地よい冷たさを保ち、まろやかさと甘酸っぱさが溶け合った味にホッと安らいだ。 「委員会、忙しかった?」 「今日は各委員会の委員長たちと体育祭準備の確認事項だったかな」 「準備って体育委員だけじゃないんだ」 「得点係とか競技道具の出し入れとかやる事めちゃくちゃあるから他の委員の人らにも手伝ってもらうの」 体育委員の彼は今、体育祭の準備に忙しくしている。 今日もお昼休みに委員会があり、顔を出せないと連絡をくれたのだった。 学校行事に参加こそはするものの、運営側に立ったことなんて一度もないからこそ、その一任を担う彼は、やっぱりすごいなとしみじみ尊敬してしまう。
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