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「しず」
どうしてだろう。
この少し低めな声に呼ばれると、自分の名前がまるで児童書から出てきたような恥ずかしさを感じる。
裾をぎゅっと握ってた私の手を触れる骨張った指先はやはり火傷しそうなほどに熱くて。
裾から私の手を解いて、代わりに握りしめてくれた奏人くんの目が変わった気がした。
「………」
反射的に俯いてしまった顔を、どうしてもあげられずにいる。
だって、この雰囲気、…………
狼狽える側から、ゆっくりと大きな影が目の前を覆う。
オレンジの香りにかすかな目眩を覚えながら髪に優しいキスが落ちた。
"されるんじゃないか"って勘違いしてたのが途端に恥ずかしくなり、予想外の場所のおかげで、無意識に強張ってた力が抜けてホッとしている自分がいる。
「………ん、っ」
顔を上げて間もなく、唇は塞がれた。
何度目かになるのに、息をひそめて、ぎゅっと目を瞑ってしまう自分は、一体いつになったら慣れるのだろう。
離れたかと思い、酸素を取り入れようと口を開けた次の瞬間。
「………っ…!」
ぬるっとした感触が、下唇の裏をなぞって。
あまりの、あまりの、あまりの未知なる感覚に
顔をめがけて全身の熱量が瞬く間にかけあがってきて、ゾワッと鳥肌が総立ちする。
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