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な、な、な、なめられた。
か、かなくんに、くっ、くちびる、うらをっ。
一瞬にして起こったことを理解し、反射的にバッと彼から離れた。
「っ、…え、……あ、」
もしかしたら心臓はもう飛び出す寸前なのかもしれない。
言葉が全くもって発せられなくて、でも何か話さなければと焦る喉は、意味のない声を絞り出していた。
「あー…ごめん」
そう言って奏人くんは、片手で私の頭を胸に引き寄せるけれど。
安堵するはずのオレンジの香りがまるで麻薬のように、脳を刺激して心拍数をますます上昇させていく。
「ごめん、許して。ほんとごめん」
顔は見えないけど、声色からして落ち込んでいるのが分かる。
大丈夫だよ、って伝えたいのに。
「怖かったよな。あー…もうマジでごめん」
破けそうな大きな鼓動に耐えるのに必死で、必死に頭を横に振ることしかできない。
重ねるだけのキスにようやく慣れた私にとっては、怖かったというよりも。
今まで接してきた彼が、なんだか知らない男の人のように感じてしまって。
隣の空いたブランコがいまだ微かに揺れている。
波紋みたく幾重にも広がる動揺を、さも体現しているようだった。
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