初飛行、そして

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初飛行、そして

 コンテストの二十五日前。埼玉県に在る本多飛行場で私達の人力飛行機『HSP』は初飛行の日を迎えていた。残念ながら新しいプロペラは間に合わなかったけど、その他は完璧に仕上がっている。  山本先輩がコックピットに乗り込んだ。他の四人の男子が左右の主翼を保持している。その後方で関係者二十名程が初飛行の行方を見守っている。 『それじゃ、プロペラを回転させる!」  無線から山本先輩の声が聴こえて来る。まだ古い設計の三.五メートルのプロペラが回転を始めた。 「山本先輩! 頑張って!」  私がそう呟いた瞬間、ゆっくりと『HSP』が滑走を始めた。そしてほんの十メートル程の滑走でフワリとタイヤが地面を離れた。 「わぁ! やったぞ!」周りで大きな歓声が響く。 『HSP』は二メートルの高さを人間が走る程の速度で飛行している。 『はぁ、はぁ、やった! 飛んでる!』  無線から響いて来る山本先輩の声と、滑らかに飛行する『HSP』を見て、私も感動に打ち震えていた。  その時だった、あっという間に『HSP』のプロペラ回転が弱まり、百メートル程の飛行距離で着地してしまった。急いで、男子が走り込んで、両翼を抑えて機体は停止した。 『はぁ、はぁ、ダメだ。ほぼ全力でペダルを漕がないと水平飛行を維持できない!』  その無線に参加者の多くから溜息が漏れる。でも私はこの結果を予想していた。山本先輩もそうだったみたいだ。 『高倉さん、君の新型プロペラが必要だ! 設計を急いでくれ!』  私はその声に大きく頷いていた。
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