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少し進むと校庭の照明が点いている。その照明の下、誰かが校庭のトラックを走っているのが見える。あれは……。
「山本先輩……。こんな時間まで……」
私はその姿に目を奪われトラックに近づいて行った。山本先輩が私に気付いて手を振ってくれる。そして私に向かって走って来てくれた。
「山本先輩、お疲れ様です! まだ走られていたんですね」
「ああ、君もまだ設計を?」
息を整えながら彼が笑顔を向けてくれる。
「はい、残りのプロペラですが、なかなか決まらなくて」
「そうか……。ありがとう、遅くまで」
「いえ、大丈夫です。先輩、質問しても良いですか?」
「うん?」
「先輩は、どうして人力飛行機に一生懸命なんですか?」
「えっ? どうしてって……」
そう言いながら彼は星空を見上げる。
「……弟の夢だったんだ。あいつは入院している時に『飛行人間コンテスト』の記録達成のシーンを見て、自分も人力飛行機で優勝したいって夢見ていた」
「そうですか……。それじゃ優勝して、弟さんを喜ばせましょうね」
その時、彼の表情が一気に曇った。
「……残念だけど、弟は三年前に亡くなったんだ。小児癌だった」
私は驚いて彼を見つめた。
「でも……、だから優勝して、弟の代わりに夢を叶えたいんだ……」
そう言いながら彼は再び夜空を見上げている。
私はその姿を見つめながら、絶対に夢を一緒に叶えるんだと強く願っていた。
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