ぴんく、ぴんく。

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 ***  ニ時間ばかりが過ぎた頃。私と弟は、そろって部屋の中でぐったりしていた。  見つからない。  何処へ行ってしまったのだ、私達の大事な“ピンクちゃん”は。 「くっそ、変なものばっかり見つかりやがる……」  弟が忌々しそうに摘み上げたのは、彼が二年前に学校で描いた絵だった。図画工作の時間に作った作品の一つである。学校の風景を描け、先生や友達を描けというものだったのだとか。印象的な絵だったので私も覚えている。弟は絵が下手くそだった。弟の手を引っ張っている男性教諭は手足の長さが左右で違っていて歪だし、それでいてその場に立っている弟はぴったりと足を閉じて棒立ちの状態である。  しかも遠くには、体育小屋?らしい小さな小屋があって何故か雷が落ちているという謎な状況だ。ということはグラウンドでの様子を描いたつもりだったのだろうか。 「これもう捨てていいか?いいよな、下手くそだしー」 「あんたの絵って私のやつにそっくりだよねー。お母さんもお父さんも絵、上手なのにさ。なんで私らはこんな下手くそなんですかねー」 「姉貴より俺のがマシだろ、雷とかかっこよくね?」 「どんぐりの背比べって言葉知ってますー?」  お互い声に力がない。大きく広げたゴミ袋の中に、弟は画用紙をぐしゃぐしゃにまるめて投げ込んだ。折りたたんだ方がたくさん袋に入るのにー、と思ったがもう突っ込む気力もない。  本当に、押し入れの整理整頓をサボっていたんだなと反省させられた。どうせ弟の卒業アルバムなどもすぐゴミになるんだし、数カ月後に彼が卒業してからまとめて断捨離すればいいやと思っていたのである。今日ほど物臭な自分を、後悔したことはない。 「うげ、こんなもん何で残してあるんだよ。捨てとけって」  彼が取り出したのは、小さな二つのお守り。とちらも白くカビが生えたようになっていて、非常に汚い。安産祈願という文字が、辛うじて読める程度だ。正式な神社のものではなく、わざわざ手作りされたもの。どちらも同じ人物から貰ってしまったものだった。  まったく、お互い残念ながらツキの下に生まれてしまったものである。お父さんとお母さんはあんなに優しいというのに。 「きったねー。つか、このビニール袋に入ってるの全部あいつから貰ったもんじゃねーの?袋ごと捨てちまえよ、どうせ大事なもんじゃないだろ」 「待って待って、袋のクチ開いてたんでしょ?ピンクちゃん落ちてないか探してからにしてよ」 「めんどくせー」  結局、吐き気を堪えながら袋の中を覗き込んでも、ピンクちゃんは見つからなかった。私達は捨てる前におまもり二つを袋にねじ込んで他のゴミと一緒に丁寧に踏みつけると、すっきりした気分でまとめてゴミ袋にボッシュートした。弟はサッカー部だが、ボールを投げるのもなかなか上手い。思わず“ストラーイク!”と叫んでしまった私である。  探しものと整理整頓は本当に私にも、ついでに弟にも向いていないと思う。探せば探すほど目移りしてしまい、愚痴を吐いたり思い出を語ったり遊んだりしてしまう。まあ、それだけ仲が良いというのは悪いことではないのだろう。弟は小学六年生で、私は中学二年生。思春期にも関わらず、異性の姉弟で仲良しなのは多分、同じ悩みや苦しみを分かち合った仲だからだろう。
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