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放送室でリンクする時
高校に入り千恵(チエ)は放送委員会に入った。 放送委員会は放課後から朝にかけて、仕入れた情報を朝放送するという役目があるため朝が早い。
朝が苦手な千恵であるが、原稿の調整とリハーサルがあるため通学路を急ぐ。
―――一秒でも早く学校へ行かなきゃ!
学校から家が近いわけでもなく、こんな彼女が放送委員会に入ったのには明確な理由があった。 歩いてゆっくりと登校だなんて勿体なさ過ぎて、走って登校する。
運動も得意なわけではないが、それも頑張ることができる理由があった。
―――私をこんなにも変えてしまうなんて、本当に凄いよ!
―――燐久(リンク)先生は!
学校へ着くと教室にすら寄らずに放送室へ直行した。 朝練がある生徒と先生くらいしか学校にはいないため静かだった。
「燐久先生! おはようございます!」
「あぁ、千恵さん。 おはよう」
燐久の優しい笑顔はそれだけで全速力で走った疲れを吹き飛ばしてしまう程だ。
「今日も早いね」
「そりゃあ、もちろん!」
「放送委員会で千恵さんよりも早く来る生徒はいないよ」
千恵が放送委員会に入った理由は見ての通り、放送委員会の顧問の燐久先生が好きだからだ。 高校に入っての一目惚れ。 そのようなことは初めてで年齢の差も関係ないくらいに好きだった。
―――燐久先生との恋は叶わない。
―――それは生徒と先生の関係だから分かっている。
―――・・・だけど、片思いを勝手にするだけならいいですよね?
燐久をジッと見ていると目が合った。
「どうかした?」
「い、いえ! 別に何でも!」
だがそれでもいつか気持ちだけは伝えたいと思っていた。 報われなくてもいい。 ただその想いを胸に抱いたままいつか来る別れを迎えてしまうのは嫌だった。
―――まぁ、本当は叶えばいいとは思うけど・・・。
気持ちとしては教師と生徒の恋愛も全く問題はないと思う。 だが世間はそうは思わないだろうし、燐久に迷惑がかかるのも間違いないのだ。
「朝早くに来てくれるのは嬉しいけど、廊下は走らないようにね」
「あはは・・・。 気を付けます」
椅子に座り朝に流す曲を選びながらさり気なく燐久に尋ねてみた。
「そう言えば、どうして燐久先生は放送委員会の顧問になったんですか? 強制的にならされたとか?」
燐久は理科を担当していていつも白衣を着ている。 放送委員会と言えば納得できるような気もするし、その高い身長からバスケ部のような運動系の顧問だったとしても似合っているだろう。
「・・・いや。 言えないけど、少し理由があってね」
「じゃあ、自分からなりたいと言ったんですか?」
「そういうことになるのかな」
「そうなんですか」
燐久は放送室にいる時、いつも部屋の中の点検をしていた。 放送機材以外に不必要なものは絶対に置いてはいけない決まりになっている。 それは部の規律を守るには大事なことだ。
だがそれ以上に何か気にしている様子も感じられた。
―――いつも何を確かめているんだろう?
―――これ以上に確かめる必要はある?
―――こんなに綺麗に整理整頓されているのに。
そう疑問に思っていた。
「あ、今日はこの曲を流そう!」
数ある音楽の中から、今日の気分と雰囲気に似合う曲を選んだつもりだった。 そして千恵がCDを入れ音楽をかけた瞬間のことだった。 燐久が後ろから手を伸ばし曲を止めてしまったのだ。
「燐久先生? どうかしたんですか?」
何かマズい選曲だっただろうか。 よく分からないが憧れの燐久に否定された気がして少し悲しかった。 だがその後の様子が変だったのだ。 燐久は何も答えることなくマイクに向かって言葉を放つ。
『Rewind』
高校に入り千恵は放送委員会に入った。 放送委員会は放課後から朝にかけて、仕入れた情報を朝放送するという役目があるため朝が早い。
朝が苦手な千恵であるが、原稿の調整とリハーサルがあるため通学路を急ぐ。
―――一秒でも早く学校へ行かなきゃ!
学校から家が近いわけでもなく、こんな彼女が放送委員会に入ったのには明確な理由があった。 歩いてゆっくりと登校だなんて勿体なさ過ぎて、走って登校する。
運動も得意なわけではないが、それも頑張ることができる理由があった。
―――私をこんなにも変えてしまうなんて、本当に凄いよ!
―――燐久先生は!
学校へ着くと教室にすら寄らずに放送室へ直行した。 朝練がある生徒と先生くらいしか学校にいないため静かだった。
「燐久先生! おはようございます!」
「あぁ、千恵さん。 おはよう」
燐久の優しい笑顔はそれだけで全速力で走った疲れを吹き飛ばしてしまう程だ。 だがそこで千恵は燐久の雰囲気がいつもと違うことに気付いた。
「・・・あれ? 燐久先生?」
「うん?」
「中に着るセーターの色、変えました?」
「え?」
「柄も少し変わっているような・・・」
そう言ってセーターを指差す。 燐久は学校に来る服装を基本的に定めている。 それに気付いたのは燐久を好きな千恵であれば当然のことだった。
「・・・いや、変えていないけど」
「でもいつも藍色だったのが紺色に変わっていますよね?」
燐久は引きつった表情を見せる。
「・・・気のせいじゃないかな?」
「そうですかね・・・」
千恵は首を捻る。 するともう一つの異変に気付いた。
「あ、燐久先生。 今日は腕時計を左手に付けているんですね」
燐久は咄嗟に腕時計を右手で隠す。
「・・・いつもよく見ているんだね」
「・・・ッ! あ、えっと、悪い意味じゃなくて! その・・・」
好きだから燐久をずっと見ていた。 本人に指摘されるとまるでやましいことをしていたのではないかと思ってしまう。
だがそれを否定しきることはできず、いつもとは違う燐久の違和感に少し引っかかっていた。
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