深夜とコーラ

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 薄暗い路地で自動販売機が必要以上に光を放っている。俺は吸い寄せられるように前で立ち止まる。迷うことなく缶のコーラを買い、その場で一気に飲み干した。炭酸の刺激と冷たさが喉を抜ける。身体が凍りつくように冷える。俺は缶を握りつぶしてゴミ箱に突っ込んだ。  猫が駆け足で俺の前を横切る。パンッと地面を鳴らして脅かすと、猫は民家の庭に消えていった。臆病なやつだ。  俺は堪らなくなって走り出した。大袈裟に腕を振り、わざと息を切らせる。頭を左右に振り、唾を飛ばしながら走り続けた。  また自動販売機を見つけ俺は立ち止まる。  財布の中の小銭は83円だった。俺は千円札を抜き取り自動販売機に食わせ、コーラのボタンを押す。ゴトンと缶が落ちてきて、釣り銭がジャラジャラと吐き出された。  俺は缶を手に取り思い切り振ってから栓を開けた。液体が勢いよく溢れ出し両手をベトベトにする。俺は残りのコーラを一気に飲み干した。  俺はまた走り出す。 「私のこと、覚えてる?」  俺は沸き起こる記憶の女を振り払う。  いい加減にしろと自分の太腿を拳で殴るが、記憶の女は消えてくれない。今日出会ったばかりで初対面の女の顔をはっきりと思い出すことができる。  
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